17歳 3

 結論だけ言ってしまえば、僕たちは一次審査どころか、県予選まで突破した。でも正直僕にとって、その過程の詳細は重要じゃなかった。県予選に出ていたどの歌い手よりも、彼女は輝いていた。僕が舞台の上で、半歩下がってギターを弾きながら彼女の方をちらりと見たとき、僕はそれを確信した。彼女は端的にこの舞台の主役だった。その立ち姿は堂々としていて、僕含む他の人間なんて見えていないようだった。まるで彼女は滅んだ後の世界で歌っているかのように見えた。それほどに、彼女はホールの「音」を支配していた。それならば僕たちが、彼女が、県予選を突破することなんて当たり前だった。


 その先の地方大会は、夏休みの真ん中に行われた。しかも舞台は、都会にあるそこそこ大きい会場。大会の前日、僕たちは近くのホテルに泊まっていた。家から会場までは県境を二回越えなければいけなかったし、朝も結構早かったから。

 そして、僕にとって決定的なことが、当日の朝に起こった。僕はひなたを起こしに彼女の部屋のカギを開けた。彼女は朝に頗る弱いらしく、僕は前日の夜にルームキーを渡されていた。それ程まで僕たちは、男と女ではなかった。部屋に入ると、やはり彼女はぐっすり眠っていた。まあ、緊張して眠れないよりはましだと思うけれど。僕が彼女の身体を揺すると、彼女は少し唸ってからゆっくりと目を開き、自身の上半身を持ち上げた。

 その時だった。ひなたはホテル備え付けの浴衣を着ていたのだけど、それがはだけて、起き上がるのと同時に肩からずり落ちてしまった。そしてそこから、彼女の裸が見えた。彼女は下着をつけていなかった。朝の光がその肌に差し込んで、胸の狭間には深い湖のような影ができていた。その下には乳房がやわらかく曲線を結び、その整った形が張りのある感触を想像させた。そしてその色はどこまでも真白で、まるで傷ひとつない陶器のようだった。

 そんな、高校生の僕にとって永遠の禁忌であるような同級生の女の子の裸を見て、僕が真っ先に感じたのは納得だった。安心と言ってもいいかもしれない。どうして彼女がここまで、異質なほど真っ直ぐなのか、どうして彼女は到達し得ないあちら側にいるように感じるのか、どうして僕が彼女との独特な距離感に満足しているのか、それら全ての疑問を貫くような答えが、僕の胸を衝いたのだ。

 つまり、この美しい乳房が全てなんだ。これほどまでに現実離れした美しさを持つ乳房が、彼女を現実離れしたものにしている。僕は、その胸のうちに秘められた彼女の心を透いて見た。それは誰も到達できない険しい山の先に咲く一輪の花のような、あるいは地中に深く埋まった鉱石のような、そんな心だ。その心は誰も汚すことはできない。花が山上の潔癖な空気に包まれているように、鉱石が不純物のない土に守られているように、美しい乳房に秘められた心は汚れる心配がない。だからこそ彼女は、他の人間とは異質なほど真っ直ぐなのだ。それならば僕は、彼女の心に僕自身を入り込ませちゃいけないんだ。彼女の真っ直ぐなそのあり方を保つには、僕は彼女の乳房に触れてはいけない。僕は彼女と、一定の距離を保たなければならない。それが僕と彼女との、全てなのだ。

 一方ひなたは、僕に見つめられてようやく、自身の状況に気づいたようだった。彼女は顔を真っ赤にさせて、浴衣の布で身体を隠した。その時僕は、彼女の焦った顔をはじめて見たな、なんて的外れなことばかりを考えていた。

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