第109話 式
真新しい制服に、まだ着られているかのような新入生代表が壇上に上がる。その口上が済むと、学校長の挨拶が有り、来賓の挨拶へと続く。
緊張していたはずの新入生たちも、そろそろ式の長さに飽きてくる頃だった。
入学式の終了を告げる司会者の言葉が終わると同時に、慌ただしくステージの上が動き出す。運動部の強豪を揃えているこの学校では、部活紹介の時間を入学式の直後に設けていた。
「あ、ほら、未冬先輩だよ、郁海。」
隣の席に座っている若葉が肘をつついた。
「スピーチやるんだ。へえ、先輩がねぇ。びっくりだ。」
小声で応じながら、くすくすと笑う。
中学の頃の彼女は絶対に人前で喋ることなどやりたがらないタイプだった。頼まれても全力で断るだろう。それを知っている後輩二人は、思わず口に出してしまう。
「今日はびっくりすることばっかりだね。」
思わず目を細めて郁海が笑う。
やがて生徒会長と思われる代表の生徒がステージに立ち、部活紹介が始まった。彼の後ろの列に各部の部長と部員が一人ずつ並んでいる。その中に、未冬の姿が見えたのだ。
入学式が終わり、午後になると部活見学が始まる。運動部に力を入れているこの私立高校では、部活目当てで入学する新入生も多いのだ。郁海と若葉もその内の一人だった。
しかし、以前に未冬も言っていた通り、高校から部活を始める新入生もいる。
興味が有りながらも恥ずかしかったり人見知りで中々入っていけない生徒を先輩たちが発見すれば、問答無用で引っ張り込むのも勧誘の仕事だ。
何しろ、今日は高校生活の初日なのだから。
「二年生、あそこのフェンスに
キャプテンの命令は、ある意味絶対だ。
放課後の校庭は広く、野球部と庭球部、男女サッカー部、ソフト部と陸上部が使用している。ボールが飛び出しかねない球技の部活はフェンスで仕切られていた。フェンス越しにどこを見ているかで、目当ての部活の種類がわかる。
未冬は後輩の姿を見つけ、手を振りながら駆け寄っていく。他の同級生たちも、知り合いの後輩を見つけたり、見知らぬ新入生でも声をかけたりしている。
「入学おめでとう、郁海、若葉。・・・で、スパイクはどこだ?」
「初日なのにそれですか。」
郁海が笑って答えた。
「親が持ってる荷物の中です。今、保護者説明会やってるんですよ。」
そう言えば二人とも手ぶらだ。
「なんだ。しょうがないなー。今日は見学だけか。」
呆れたようにそう言って二人の後輩の肩をばしばしと叩く。
それでも一応ベンチまで連れて行かなくてはならない。勧誘は二年生の仕事なのだ。未冬の後輩は二人だけだが、新入生は他にもいる。声をかけるべきか悩ましいところだ。
「わたしは持っています。」
小さな声が、背後から聞こえた。
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