ギフトを持つ彼女を追いかけて
ちわみろく
第1話 だからその手を離して
「だからさ!なんであそこでボール出さないの!?」
二年生の
そんなこと言われたって、あの状況ではとても出せるものじゃない。先輩には三人ものマークが付く。相手チームから完全に狙われているのだ。
そんな危険なボランチにボールをくれてやるわけには行かないだろう。
という言い訳をしたいけれど、
だって自分は一年生だし、先輩を怒らせると怖いし、面倒くさい。
「ちょっと、
げ、という声が聞こえてきそうな顔で、早苗先輩と弥生先輩がこちらを向いた。苦笑いをしながら、
「そ、そうねぇ・・・仕方なかったんじゃない。」
「夏南だってさ、一生懸命やってるんだし、もういいじゃん。」
ありがとう、と心の中で何度か唱えるが、二人の先輩の応援も余り意味がない。
入団した時から何故か、未冬先輩は夏南に何かと辛く当たる気がしてならない。確かに新入生だった頃はまだ日も浅かったし、慣れなくて色々と迷惑をかけることも有ったけれど、さすがに半年も経てばそこまで言われるほどではないはずだ。
現に、ここまで厳しくダメ出ししてくる先輩は未冬だけなのだ。他のメンバーは、夏南が一年生ながらも頑張ってレギュラーに追いついてきていることを認めている。
「・・・すみませんでした。」
低く呟いて軽く頭を下げると、夏南はその場を去りたくてすぐに踵を返した。一年生は二年と違って雑用があるのだ。先輩のお説教を聞くだけが仕事ではない。
「ちょっと、まだ話終わってない!」
未冬が逃げようとした夏南の右手をつかんだ。
「・・・なんですか。」
さすがに、しつこいと思った。
夏南が顔を上げて嫌そうにため息を付く。
いつも表情を悟られたくないがために長めに伸ばした前髪がずれ、その切れ長の目がちらりと覗いた。大きい目ではないが、睫毛も長く、切れ長の瞳は気だるそうに細められる。
「なんだよ、その顔。あたしの言ってることが間違ってるとでも言うの。」
その顔をみたせいだろうか、先輩はさらに畳み掛けてきた。
ああ、面倒くさい。
どうしてこの人はいつもこうなのだろう。
「・・・間違ってません。悪いのは自分ですから。すみませんでした。」
全面的に自分の非を認めて謝罪したのだから、これでいいだろう。
いいかげんに手を離してくれ。そして、自分を開放してくれ。
そう思っているのが顔に出ているのだろうか。未冬先輩の表情は一層険しくなった。
だが、そこに助け舟が現れたので、夏南はほっとした。
監督が未冬を探している声が聞こえたのだ。
「未冬、監督がご指名だよ。早く行きなよ。」
早苗が言い添えてくれた。
「ん、わかった。」
ようやく握られていた手を開放され、夏南は軽く手を振った。結構な握力で握られていたので、手首が痛かったのだ。
まあ、サッカーという競技においてゴールキーパー以外はそれほど手のコンディションを気にはしないだろうけど、やはり痛いのは嫌だ。
傍らに立っている早苗に軽く頭を下げて、夏南は片付けの方へ足を運ぶ。
「あんま、気にしないでいいよ。未冬って誰にでもああなんだから。夏南は何も悪くないからね。」
早苗先輩は二年生の中でもかなり優しい。心優しいセンターフォワードで、その穏やかな性格に似合わず、攻めの要だったりする。得点数では未冬に負けているが、それでもチームで二番目に点を入れていた。
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