『バス停』 下

            

 

 けれども、いつまで通信可能なのか、わからないです。


 また、さっきみたいに、あっと言う間に閉じるかもしれない。


 のんびり書き換えてはいられないかもしれないのです。


 ましてや、電池の残量も20%。


 そこで、思ったのですが、お話しそのものを、公開保留にするか、削除するか。


 その、どちらかが正解のように思えたのです。


 保留だと、効かないかもしれません。


 保留した後、効かなければ、削除ということはあり得ますが、通信できなくなるのは、恐怖です。


 削除したら、それなりに、苦労して書いたものが、なくなるわけです。


 考えている時間はないかも。


 そのとき、上の蓋に、なんだか、異変が起りました。


 誰かが、マンホールを開けようとしているのです。


 誰でしょうか。


 巨大かたつむりさんでしょうか。


 それとも、他の誰かでしょうか?


 救助に来た、誰かでしょうか?


 あれほど、すんなり開いたのですから、どうやら、手こずってるところからしたら、不可思議です。


 ほんの少し、光が入りました。


 その光に、何か、刃物の刃先の様なものが、きらりと光ったのです。


 ぼくは、それで、決意して、お話を削除しました。


            🛏


 気が付いたら、お布団の上でした。


 なんだ、夢か。


 嫌な夢だなあ。


 と、上向きになろうとしたとき、ぼくの身体の左側に、ナイフが突き立っていたのです。


 『うぎゃあ。』


 周囲を見回しましたが、窓はちゃんと閉まっていて、カギも掛かったまま。


 奥様は、今夜は夜勤です。


 荒らされた形跡もありません。


 スマホを確かめると、あのお話しは、削除されていました。


 『あり得ないよね。物理的にも、あり得ない事は、起こるはずがない。』


 そうです。いかに不可思議であっても、あり得ることにしか、回答はありません。


 エジプトのピラミッドも、ナスカの地上絵も、宇宙人が関与して作ったと考えるより、人間が、自ら作ったと考えるべきです。


 つまり、この場合は、自分で行ったということです。


 お薬の副作用でしょうか。


 きっと、そうです。


 ただし、そのナイフは、見覚えがないものでした。


 その柄には、こう書いてありました。



 『勇気を持て。すべて、あなたがすることだ。』



                おしまい


 


 







 


 

           

 

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『バス停』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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