【急展開】まさかの偶然出会ったラジオDJが……!

 オレンジ色の夕暮れと、陰になったビルの黒のコントラストが哀愁を漂わせていた。

 悪霊を祓ったというのにと寂しい足取りで俺達は帰路につく。

 ふいに、ルディが「なあ」と声をかけるものだから俺もそれに反応するしかなくて、会話が始まる。


「おまえ、あんなこと言われて悔しくないわけ?」

「悔しいに決まってるだろ」


 あんなこと、は俺達が浴びせられた罵倒や不信だ。当然、ルディも不快に思い尋ねているのだろう。

 だが、それにいちいち反応している場合では無かった。それに、俺達が不利なのも事実だ。

 たとえ、彼らに何かを言い返したところで問題が解決するとも思えなかった。そんな事よりも――


「でも俺達がやるべきなのは悪霊を祓う事だから」

「それと、四人目の知恵のスートを見つけること、か」

「そうだな」


 やらなければならない事が二つある。せめて、知恵のスートが見つかれば状況は好転するはずなんだが。

 ルディは足を勧めながら天を仰ぐ。


「何処に居るんだろうな。グリムやクラウンからの情報も特にないし」


 俺達が悪霊を祓っている間にグリムやクラウンにスート探しをしてもらっているが、いまだに手掛かりはないのだろう。特に連絡はない。

 とぼとぼと道を歩いていると行き詰っている俺達の状況と同じように道が人で塞がれていた。なんで、こんな何もない所に人だかりができているのだろう?

 俺は横目で大勢に囲まれている対象を確認する。


「……はい、こんばんは! DJビルのナイトフィーバーラジオ今宵は公開収録でお届けします」


 高層ビルの一階にあるガラス張りの部屋の中で、ダークブロンドのパーマをかけて目にはサングラスをした男が何かを話していた。

 まじまじとそれを見つめる俺にひょこりと覆いかぶさるようにルディもサングラスの男を確認した。


「なんだあれ」

「ラジオの公開収録って言ってたな」


 有名なパーソナリティーが現在進行形で収録中となれば、この人だかりにも納得だ。


「たしか、DJビルってさっき言ってた」

「DJビル!? 超売れっ子パーソナリティーじゃん!」


 あ、やっぱり有名なんだ。俺はこういった類のこと詳しくないから知らなかったけど、ルディがこれほどに驚いているという事はやはり有名人なのだろう。

 ガラス張りの部屋に張り付くファンもいた。そんなに人気ならば一体何を話すのか少し気になる。


「最近なにかと物騒な世の中だけど皆大丈夫? ああ、スートとか話題になっているよね」


 耳を澄ませた俺が馬鹿だった。メディアは俺達スートを糾弾している。このラジオも同じ事だ。

 俺は、これ以上ここに居ても傷つくだけだと思い帰宅を促した。


「行こうぜ」

「いや待て」


 それでもルディは足を止めたままだ。まあ売れっ子となれば気持ちは分からなくないけど。こんな話きいてまた傷ついたらお前どうするんだよ。今度は励ましてやらねえから。

 ところが、売れっ子パーソナリティーのトークは思いもよらない方向へと進んだ。


「そういえばさっき見たんだよ。スートちっちゃいのとおっきいの二人組。なんか大勢の人に随分酷い事言われてさあ。かわいそうだったんだよね」


 あれ、こいつ俺達を庇っている? そう思ったのは他のギャラリーも同じのようで辺りがざわつく。ガラス越しにそれを確認するとビルはわざとらしく語った。


「どうしてスートを庇うかって? だって俺、スートだし」

「え?」


 スート? こいつが? だとしたらこいつは俺達が探していた――

 考えるより先に体が動いていた。俺は、人だかりをかき分けて彼を隔てるガラスを叩いて叫ぶ。


「おい、どういう事だ! お前が知恵のスートなのか!?」

「わあ、噂をすればスートさん本人たちが来てくれた。すごいな」


 辺りはざわめいているというのに当の本人であるビルは能天気に笑う。


「頼む! 力を貸してくれ! 俺達と一緒に……あっ!?」


 後ろから羽交い絞めにされてしまう。しまった、と思って振り向くが背後に居たのはルディだった。


「おい、ヒューバート落ち着け! これラジオだぞ」

「しかも生放送でお送り中」


 ビルはピースサインをしながら明るく語る。

 な、生放送? って事はさっきのは公共の電波に乗ってしまったのか?


「まあまあ、折角だし、スタジオへどうぞ」


 はらはらとしていたが、そんな俺とは裏腹にビルは俺達を歓迎した。


 公開収録のスタジオに通されて、大勢の視線が刺さるが今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 ビルは構わずマイクの前で変わらぬ口調で喋る。


「いやあ、特別なゲストさんが来てくれてビックリ。まさか本物のスートに会えるとは」

「それはどちらかと言うと俺達のセリフなんだよな」


 ルディが小さな丸椅子にどかりと腰を掛けた。

 俺はマイクの前で本題を切り出す。


「それで、お前がスートって……死神と契約したって事なのか?」

「ああ。そうだな……正確にはスートであり死神であるって感じかな」

「どういう事だ?」

「まあ、僕の生い立ちに関係があるかな」


 ビルはそう言って、ゆっくりと瞳を閉じてマイクに口を近づけた。


「あるところに人間に恋をした死神が居ました。名前はジム。僕の父です」

 

 父? 死神が子孫を残したというのか?


「しかし、人間と死神は結ばれぬ運命。彼は惚れた女と駆け落ちをしてしまいます」

「駆け落ちって……」

「駆け落ちをしたのはいいものの、女の元カレが二人を引き裂こうと邪魔をします。困った二人は契約を交わすことにしました」


 人間と死神の恋人同士で交わす契約なんてあるのだろうか。


「『お互いにずっと一緒にいたい』と」

 

契約の内容はなんとまあロマンチックなことで。


「幸いにも、この願いは叶いました。人間と死神二人は融合して一つの固体になった」


 一つの個体? まさか──


「そうして生まれたのがこの俺ってわけ!」


 ビルは親指で自身を指して白い歯をみせた。


「つまり、お前は人間と死神のハーフ?」


 俺が確認するように尋ねると「そういう事!」とビルは肯定した。


「あー……とか言っていたら、そろそろお時間となりました!」


 時間だ。公開収録は終わってしまう。


「最後に一言もらっていい?」


 そうビルに促されたが、ルディは口下手だからか首を横に振った。


「じゃあ、俺から一言だけ」


 だが俺には言いたいことがあった。

 戦って、叩かれて。ボロボロになったとしても、口にしておきたい言葉がある。

 俺はマイクにむけて口を開く。


「俺達は、次は絶対に負けない。今度オウガと戦う時が来たら……」


 少し間を置いて、息を大きく吸う。そして――


「その時は、絶対に倒す!」


 張るように叫ぶ。あたりに並ぶメーターが振り切れても関係ない。俺は宣言するしかなかった。

 次が来た時には、絶対に、あのオウガを倒してやる。

 これは、約束だ。嘘は吐きたくないから、そう言って勝つしかない状況に自分を奮い立たせるための。


「はい、ありがとうございました~! 本日の飛び入りゲストはスートのお二人でした」


 ビルが明るく締めて、公開放送は終わった。あたりのギャラリーはざわついていたが、収録が終わったことでゆっくりと退散した。

 ルディは心配そうに俺をじっと見つめている。


「……良いのかよヒューバートあんな事言って。勝算あるのか?」

「ない!」


 俺達とエビルの力の差は歴然だ。ビルを仲間に招いたとて戦闘能力は未知数。絶対に勝てるなんて保証はない。それでも宣言したのは本当にできてしまいそうな言霊を信じたから。


「はは、凄いや。やっぱり面白いな、ヒューバートさん……あー、長いからヒューさんでいい?」


 さりげない問いに、ルディがずいと前に出て答えた。


「俺達に協力してくれるなら構わないぜ」

「なんでお前が答えるんだよ」


 俺の呼び名だろうが、とツッコむ間もなくビルはぱあっと笑顔を浮かべた


「もちろん! そのつもりだよ。で、何すればいい?」

「とりあえず……ダイナーまで来てもらおうか」

「分かった!」


 ビルは上機嫌で、上着を羽織りスタジオを後にした。

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