【悲報】ルディは落ち込むしエビルは調子乗ってます

 その後、オウガはエビルと同様に大量の悪霊を引き連れて、街を襲った。

 俺達が奴を止める事が出来ていたならばこんな事にはならなかっただろう。

 ここぞとばかりに各新聞社は責任を全て、スートである俺達に押し付けていた。

 新聞だけではない。テレビからラジオまで至るメディアが寄ってたかってスートは役立たずと大合唱をはじめた。

 俺達はヒーローからヒールへと成り下がった。


「はあ……」


 スウィーティー・ダイナーにいつものように取材に行くが、ルディは落ち込んでテーブルに突っ伏し深い嘆息を吐いていた。

 昨日からずっとこの状態だ。


「いつまでうじうじしてるんだよ」

「だって、俺達のせいで……」

「落ち込んでいたってどうしようもないだろ?」


 テーブルの上に置いてある大量の新聞が目につく。


『スートはやはりインチキ? 悪霊、大放出される』

『スート、オウガには歯が立たない。無意味』

『ヒーローはいなかった。スート大失態』


 どれも、俺達を糾弾するものだ。テレビでもラジオでも似たようなニュースが流れている。

 なぜ、ルディがわざわざ傷口に塩を塗り込むように各メディアの情報を目にしているのか、俺には理解できなかった。


「それにしても、酷い言われようだよな」

「けど、事実だろ! 俺達が奴を止められなかったから現に……」

「あの時俺を止めたのはお前だろ」

「あの時は……お前を止めなきゃ、死ぬまで戦いそうで……怖くて」


 俺は責任転嫁されたようなルディの言い分に「なんだよそれ」と言い返した。


「それに、こんな事……あのオウガがここまでの被害を出すなんて考えられなかった! ここまで叩かれることも」

「過ぎた事を言っても仕方ないだろ。俺達は戦うだけだ」


 武器は壊されても炎なら使える。小さな悪霊くらいはルディとヨハンナにも祓うことが出来た。

 エビルは俺が担当して一人で戦っている。苦戦はするけれど、それでも戦うしかなかった。


「俺は! お前みたいに強くない」


 さりとて、泣きそうな声で叫ばれてしまえば「……そう」と頷く事しか俺にはできなかった。


「どうすれば……いいんだよ」


 ルディはテーブルに肘をついて頭をぐしゃりと掻き上げる。

 比較的楽観的なルディでも、今回ばかりはひどく落ち込んでいる。

 彼には大切な人を守れなかった過去がある。そんな思いをもう二度としたくないとスートになったのだ。

 人を守りたいという気持ちと責任感が強いゆえ、今回の敗北はルディの心には大きなダメージを与えたのだろう。


「俺達のやる事は二つって言われただろ?」


 グリムに言われた俺達の任務は二つあった。

 一つはオウガが引き連れた悪霊を退治する事、もう一つはヨハンナの武器を直す事。


「ヨハンナが戦えない中で、お前がこんな状態でどうするんだよ」

「……分かってる。ヨハンナの武器を直す最後の死神を見つけなきゃならないのも」


 そう、ヨハンナのチェーンソーを再び動かすためには死神の協力が必要だった。スートの武器の修復が出来る死神は、知恵を司る死神しかいなかった。彼は、以前グリムが言っていた、人間と駆け落ちした死神だ。

 とはいえ、悪霊もひっきりなしに街を襲う今、呑気に人探しなどしている場合では無かった。とりあえず、死神探しは彼の姿をしっているグリムやクラウンに任せている。

 だが、一向に見つかったという連絡はない。


「分かっているけど、俺は──」


 と、その時だった。店の電話がけたたましく鳴る。


「ルディ。電話だぞ」

「……代わりに出てくれよ」


 しおらしい彼を相手にすると調子が狂う。俺は「……分かったよ」と言って、受話器を取った。


「もしもし」

『あ、ヒューバートさん?』


 この軽い敬語、クラウンだ。知恵の死神がみつかったのだろうか。

 電話口から無情な現実が突きつけられる。


『エビルが、街を襲っています』

「……分かったよ」


 スートとしての仕事の依頼だけ告げられて通話は終了した。机に伏せていたルディもゆっくりと頭を上げて俺に「誰?」と問う。


「クラウンから。エビルが街を襲っているって。行くぞ。」


 俺がコートをなびかせて扉の方へと向かうと、ルディは再び大きな背中を丸めた。


「おい、行かないのかよ」

「……」


 ああ、もう見てられない。

 俺達を責める事しか出来ない媒体も、うじうじと背中を丸めるルディも全部。

 脚を振り上げて、下ろす。ばあんと景気のいい音がフロアに響く。

 俺は思い切り彼の背中を蹴ってやった。


「痛あっ!?何すん──」

「ルディ。よく聞け」


 抗議を遮ってじっと射るように彼の瞳をを見つめる。


「今の俺達にはやらなきゃならない事をやるしかないんだよ」


 明瞭とした口調で問うと、ルディはたじろいだ。

 今は俺達ができることをやるしかない。

 たとえ、オウガに歯が立たなくたって、今現在倒さなきゃいけない悪霊は大量に発生している。

 奴らと戦う。それが俺達のやるべきことだ。

 それなのに、どうしてルディの口からそれが出ないのか理解できなかった。


「ここがどんな地獄でも、前を見なきゃ何も始まんないからな」


 俺はルディを残して構わず店を出た。

 エビルと戦うために。



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