【朗報】凸凹バディ爆誕! 密着取材をする事になりました!

 悪霊は無事祓われ、モイラは生きたまま解放された。

 グリムに任せていたポラロイドも良いものがたくさん撮れていた。これで、記事が書ける。

 その翌日、俺はタイプライターをひたすら叩き続けた。


 事実は小説より奇なり。


 今までの取材の中でも奇妙で不思議な案件だったし、情報量も格段に多い。

 それでも俺たちが命がけで守り抜いた真実を伝えなければならない。それが俺の仕事だから。


「できた……!」


 何とか朝刊締め切りまでに記事は間に合った。あとはこれが印刷されて発行されるだけだ。


 

 更に翌日。爽やかな気分でオフィスに出勤した。


「おはようございます!」


 加減ができない挨拶に、皆が振り向いた。


「おお、ヒューバートおはよう」

「編集長。おはようございます!」

「先輩! おはようございます」

「もう大丈夫なのか? デック」

「ええ! この通り!」


 デックは笑顔でピースサインをした。すっかり大丈夫なようだ。


「おまえこそ大丈夫か? あの後……取材行ったみたいだけど帰って来なかったじゃねえか」

「ええ、ちょっと長丁場だったんですよ。今回」


 和気あいあいとした空気で労ってもらうと気分が良い――のも、束の間だった。


「ヒューバート・サーシェス」

「あ、局長」


 フルネームで呼ばれて振り返る。表情を見る限りお怒りだ。

 局長はデスクに新聞を叩きつける。一面を飾っているのは俺の記事だ。


「どういう事だ! この記事は! 死神? 悪霊!? 伝統のあるわが社に載せる記事とは思えない!」

「そんな事言ったって、それが事実だったんですよ」

「事実だと? 本当にこんな人物居るというのか! おまえがでっち上げただけじゃないのか!」


 でっちあげ? ルディの存在が?


「そんな訳――」

「何? 俺の話?」


 一昨日までさんざん聞いた声がオフィスに響く。声の主は来客者用のカードを首から下げていた。


「ルディ!? おまえどうしてここに!」

「あー、おっさん。なんかこいつが嘘ついているんじゃないかみたいな話してるみたいだけどさ」


 俺の質問も無視してルディは局長に話しかける。


「こいつは絶対に嘘つかないよ。俺が保証する」


 真剣に睨むような目つきで言われてしまえば局長も「なっ……」と声を上げることしかできなかったみたいだ。

 すると、「局長」とエスター編集長がメガネを上げて、俺の記事を指差した。


「大変ですよ。この記事」

「何!? 問題でもあったか!」


 局長は嬉しそうに大声を出しながらエスター部長の方を振り向く。

 ところが、編集長はため息をつきながらやれやれと首を横に振った。


「はい。大問題です! この記事大好評でさっきから電話が鳴りやみません」

「あちこちでスクエアタイムズの新聞箱が空っぽになっていて問い合わせが来ています!」

「こりゃ、俺の入社以来最大の反響だな」


 エスター部長の入社以来って事は――過去五年で最高って事?

 真実を綴っただけの記事がこんな事になるなんて!

 二人の話を聞いた局長は歯ぎしりをしながら顔を歪めた。しかし、その後すぐさま腰を低くして両手を揉みだす。

 彼の視線の方向はルディへと移った。


「ルドルフ……さん。あのう、私めに取材をさせてくれませんか?」


 取材の依頼? しかもルディに? まさか――


「俺の手柄を横取りする気ですか!? このネタは俺が掴めって」

「うるさい! こんなことになるなんて思っていなかったんだよ!」


 そんな! この記事は俺が命がけで取材したものだろ!

 どこまで理不尽なんだ! と思っていると、ルディが「ああ。悪いな」と告げる。


「俺、部下の手柄奪うような奴の取材はお断りだから」


 おっ! 言って欲しい事を言ってくれた。俺もそうだそうだと頷く。

 断りは入れた、とルディは局長の元を離れようとした。


「そこを何とか!……待ってくれ!」


 局長は食い下がってルディの元へ駆け寄る。ところが――


「あっ」


 思いきり躓いてしまい、局長は地面へと叩きつけられた。

 いや、それだけなら良かった。見事に彼の頭は地肌をむき出しにして、髪の毛を装っていたヅラがパサリと落ちた。


 ……

 ………………

 誰も声を発さない。気まずい沈黙だけが漂う。

 おい、どうするんだよこの空気!

 と、思った矢先に局長は顔を真っ赤にしながらヅラを再び頭に載せる。そのまま「お、覚えておけ!」とルディを指差して編集室を後にした。


「いや、俺なんもしてねーし」


 ルディは冷静に呟いた。まあ正論だ。


「ふっ……」


 一連の流れがどうにもシュールで俺はついついふき出してしまう。


「おまえ……っ、いや……なんでも……ふふっ」

「笑いすぎだろ」


 ルディはまたもつっこむ。ああ、たしかに笑っていたらきりがない。

 そうだ、そんなことよりも彼は何故ここに居るんだろうか。


「ていうか、何しに来たんだよ」

「ああ、クレーム入れに来た」


 ルディは不機嫌そうにジーンズのポケットから記事の切り抜きを取り出した。


「クレーム? なんでだよ、事実しか書いてないだろ?」

「ああ、そうだよ……でも」


 彼はデスクに切り抜きを叩きつけて大きな声で怒鳴る。


「なんで、俺がモイラにフラれちまったことまで書いたんだよ!」


 ルディの言い分はこうだ。


 実はあの後、彼はモイラと少しだけいい感じにはなっていた。

 運命の人は正義のヒーローとなりヒロインを救う。二人の間には十分にフラグが立っていた。

 だが、そのフラグをルディは思い切り折ってしまったのだ。


「事実だろ! おまえの料理でモイラが倒れたんだから!」


 ルディはその後、モイラに手料理をふるまった。モイラの理想の男性は料理ができて、背の高い男性。ルディとしても、料理が上手なところをアピールしたかったのだろう。

 ところが、彼の作る料理は激甘で食えたもんじゃないらしい。グリム曰く、その料理を客にふるまう事で気絶させて悪霊退治へと移管するという作戦だった。

 あのクソ神父が言っていた「天にも昇る料理」の意味はそのままの意味だったようだ。


「だからってわざわざ書くことねえだろ!」

「俺は事実しか書かないんだよ! 嘘つきたくないからな!」

「くっそ! もう取材なんか受けないからな!」


 ふん、ルディは頬を膨らましてそっぽを向く。まるで子供が拗ねるように。


「いいのか? そんなこと言ってお前の戦闘センスでエビルと戦えるのか?」

「お前だってとどめ刺せない癖に! ちょっと戦えるからって調子乗んなよ! このおチビ!」

「でくの坊には言われたくないね!」

「あ……あのー」


 俺達がぎゃいぎゃいと言い合っていいるとデックが背を丸くして恐る恐る挙手していた。


「ん、何だよデック」

「お二人共、皆さんが見ていますよ……?」


 気づけば俺達は四方をぐるりと集ったギャラリーに囲まれていた。その中には女性社員のきゃぴきゃぴとした黄色い声も紛れていて……というか、そういったものの方がどう見ても多かった。


「……お前の職場って結構かわいい子多いな」

「まあ、老舗新聞社だからな」


 関係あるのかは分からないけど。


「今後も取材させてくれるなら、紹介してやらなくもないぜ」

「マジかよ!」


 単純な奴だ。ルディは目を輝かせて俺の手を握る。


「これからよろしくな! ヒューバート」

「ああ。よろしく。ルディ」


 一方的な握手ではあったが、かくして悪霊退治をするダイナー店員と新聞記者の凸凹バディが誕生した。

 それだけ綴って、俺は万年筆で綴られたこの取材メモを閉じた。

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