【カオス】喋る! 骨になる! DX巨大サーモン 今なら死神パワーも憑いてくる!
するとルディは大きな水槽の方を見た。俺もつられて同じ方向に視線を移したが、そこには水槽から頭を出したサーモンが居た。
「おまえの言う通り、俺は死神だ」
間違いなく、水槽のサーモンが喋っている。いやいや、こんなの夢に違いない!
俺はルディの頬に手を伸ばし、試すように抓ってみた。
「いててっ!」
「夢でもない……」
「自分の頬を抓ればいいだろ!」
俺たちの小競り合いを横目に、巨大サーモンは「やれやれ」と言いながら首を左右に振った。
すると、水槽から飛び出して自身の体をサラサラと砂に変えていき、真っ白な骸骨の姿になった。まあ、骸骨と言っても魚の骨だが。
「なっ……」
それでもこの光景を信じられなかった。
「あ、あ……」
それはルディも同じで、情けない声を漏らしながら魚の骨に手を伸ばしていた。
「俺の食材いいいいいいっっ!」
「やっぱり食うつもりだったのかよ!!」
あんな怪しいサーモン食べようとするなんて、どんな食い意地だよ!
魚の骨――もとい死神は呆れたようにため息をついた。
「……この記者の言う通り、俺は死神。名前はグリムと言う」
いやいや、でも、待て。こんなのあり得ない。そうだ、ドッキリだ。きっとどこかに『ドッキリ大成功』というちゃちなボードを持った仕掛け人が待機しているに違いない。
俺は腕を組みながら鼻を鳴らして自称死神の魚をじいっと見つめた。
「いや、死神だなんて……どう見たって魚だろ」
「死神はひとつだけ好きな姿に化ける事が出来るんだ。ほら、姿は死神そのものだろ?」
いいえ、どう見ても魚の骨です。
たしかに、骸骨に黒いケープ。その条件だけであれば彼の姿はおとぎ話に出てくる死神そのものではある。ただ、魚の姿なだけであって。
ただ、水槽から出てきてもピンピンしていた喋る巨大サーモン。これにはじっくり観察しても種も仕掛けもなさそうだ。つまり、現実。
オカルトの類は信じないつもりだったし信じたくないが、目の前で起きている事実を受け入れざるを得ない事態へとなっていった。
目の前にいるのは、死神。それは、つまり――
俺は死神に向かって人差し指を指した。
「もしかして、おまえがこの連続焼死事件の黒幕っ……!」
「まてまて、そうじゃない。むしろ俺は悪霊を祓う側だ」
「は?」
名探偵よろしく思い切り犯人だと言い切る予定が、まさかの弁明に俺は間抜けな声を出してしまった。
「死神は魂の管理者でな。冥府に人間の魂を送り届けるのが仕事だ」
ルディが頭上にクエスチョンマークを浮かべるように首を傾げて「ん?」と言う。
「冥府ってなんだよ。えっと……グリル?」
「グリムだ! なにこんがり焼いてんだ!」
「サーモンのグリルなら、美味しそうだな!」
人がこんがり焼かれる事件ではあるが、ひどい言い間違いにグリル――いや、グリムも怒鳴り声を上げながら体をびちびちと震わせる。
「たく……冥府とは死後の世界――天国や地獄のことだ」
辛辣に言いつつもグリムは丁寧に説明を続けた。
「冥府に行かず現世にとどまった霊は悪霊となる。悪霊を祓うのがお前のようなスートの役割だ」
「スート?」
グリムから初耳の称号を貰ったルディは聞き返した。俺もその言葉は知らない。もう一度メモを取りながら質す。
「死神は自分で悪霊退治しないのか?」
「死神の仕事は死期を迎えた人間の魂を冥府に送る事であって、悪霊になった魂は干渉できないんだ」
つまり、悪霊に干渉できない死神たちの代わりに力を貰ったスートは悪霊退治をするという事らしい。
「死神は古くからスートに力を与え悪霊に対処してきた。本来悪霊はスートと死神にしか見えないものだったはずだったんだがな。それが先日から誰にでも見えるようになってしまった」
「ん? じゃあ見えなかったはずの悪霊が見えるようになって……それであんなに派手な火事になっているってこと?」
聞いてはいけない事を聞いたのだろうか。グリムは気まずそうに遠くを見つめた。
「その通りだ。……それもこれも、ジョーカーのメスのせいだろうな」
「ジョーカーのメス?」
俺が聞き返すと、グリムはテーブルに広げられていたルディの写真を指した。
「ほら、この客達に刺さっているだろう。これはジョーカーと呼ばれる悪の死神が生み出した悪霊だ。このナイフに刺された者は悪霊の黒い炎に燃やされて死ぬ」
「つまり、人間に見えるタイプの悪霊がみんなを燃やしているってこと?」
グリムは「そういう事だ」と頷いた。なるほど、つまりはジョーカーという悪い死神が悪霊で人間を襲っているという事か。俺は納得したが、ルディは対照的に考え込んでいた。すると彼は顔をゆっくりと上げてグリムに「一応。確認だけどよ」と尋ねた。
「ジョーカーって死神なんだよな? なんで悪霊を使ってるんだ?」
「ジョーカーは闇堕ちをした死神だ。死神が禁忌を犯した時、ジョーカーに変貌する。」
「禁忌? なんかやらかしたのか。そいつ」
死神の世界にもルールはあるらしく、ジョーカーは何かしらのおきて破りをしてしまったらしい。
死神であるグリムにとってもあまり触れたくない話題なのだろうか、彼の瞳は曇った。
「禁忌には二つある。一つは人間の寿命を延ばす事。もう一つは存在しない人間の命を創造する事。これらは、魂の理を覆すものになるから絶対に禁止とされている」
曰く、人間には寿命というものが決まっていてそれに従って死神は魂を回収している。その理を崩壊させてしまう事は死神の世界――冥府ではご法度とされていた。現状は、その掟破りをした死神が悪霊を使って暴れまわっているわけだ。
「ふうん。じゃあ、ジョーカーはどっちかをやらかした死神ってことか」
「そうだ。スートでお前も禁忌を犯せばジョーカーになる。気を付けろよルディ」
グリムは忠告するようにびしっ、と短い台形のヒレをルディに向けた。当のルディは困惑して頭をがしがしと掻いている。
「気を付けろったって……俺にそんな力ねえよ。俺は悪霊を祓うだけだし」
「いや、死神と人間との契約には死神は人間の死後、魂を貰う代わりに人間の願いを叶える必要がある」
なるほど、契約というだけあって互いにwin-winになる条件を提示されているわけか。
俺は話に割り込み、確認する。
「じゃあ、契約した時に何かしらの願いを叶える約束をしてるって事か?」
グリムは「そういう事だ」と肯定した。
つまり、スートであるルディは何かしらの願いを叶えてもらっているわけだ。
もしもそれが禁忌を犯す可能性があるなら要注意と言ったところか。
俺は彼の契約内容を聞きこむ。
「お前どんな契約したんだよ」
「いやー、全然心当たりないんだよなあ」
ルディは明るい声で手を頭に回し照れていた。おい、大丈夫かこいつ。
その照れ笑いも何かに気づいて彼は「あ」と言い自らを指差す。
「でも、なんで俺がわざわざスートに選ばれたんだ?」
「人間は魂を燃やす業火という炎を持っている。その色は大きく分けて黄色白青の四種類。黄色には浄化の力があり黒い炎を消す除霊にはうってつけだ」
俺は納得してもう一度写真に写った黄色く滾る業火を眺めた。
「なるほど。黄色い炎はそういうことか……」
「つまり、ルディ。おまえはスート向きだったからこうして俺が力を分けているんだ」
合点がいった。ルディの持つ黄色い炎は悪霊を祓う為のものだったのか。グリムは見事にスカウトに成功したわけだ。
「でも。なんで魚の姿になんかなったんだよ。どうせ一緒に居る死神なら可愛い娘ちゃんとかの方が良かったのに」
「食い意地が張っているお前には、この姿が最適だと思ったんだ」
俺は思わず吹き出す。グリムの作戦が見事に成功して、ルディは彼を食材として接触しようとしたからだ。
「まさか骨の姿まで魚になるとは思っていなかったがな」
いや、そこは予想外だったのかよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます