類似

 喧嘩別れする形で村を飛び出した桃太郎はあてもなく彷徨さまよっていた。

「とりあえず川の上流を目指してはいるけど……そもそもおばあさんがどこの川で洗濯してたかを知らねぇ」

 自分のリサーチ不足を恥じるが、今さらのこのこ村に帰るわけにもいかない。

 そのまま無心で歩くこと1時間。

「やーめた。そもそも俺を閉じ込めたのなんて20年近く前なんだから死んでる可能性もあるしな」

 出発から半日も経たずに挫折した。


 休憩がてら峠の茶屋に立ち寄った桃太郎は景色を眺めながら団子を頬張る。すきっ腹に温かいお茶を流し込むと食道がじんわりと熱くなった。

「お姉ちゃん、団子おかわり」

「お客さんよっぽどお腹空いてたんですね」

「そりゃあ長旅で疲れてるから」

「へぇ、どこから来られたんですか?」

「えーっと……枚方山」

 桃太郎は見栄を張って三つも離れた山の名前を出した。

「まぁ枚方から。それはご苦労様でした」

(というか俺の顔、全然轟いてないんだな……)


「お姉ちゃん、桃の中に赤ん坊を閉じ込めて川に流してるイカレ野郎のこと知らない?」

「さぁ……」

「じゃあここの茶屋に立ち寄った客がそんな話をしてた──とかもない?」

「聞いたことありませんねぇ」

 当然の空振りだったので桃太郎も落胆していない。

「お客さんその話、桃じゃなくて竹じゃありませんか?」

「桃であってるけど……なんでまた竹が出てくるの?」

「ここから二つ先の山の麓に竹から生まれた美女が住んでるって噂ですよ」


「…………マジ?」


「おとっつあんから聞いた話によると、光る竹を割ったらその中に赤ん坊がいたって。随分昔の話なので今どうなってるか知りませんけど」

「いや、十分。立ち寄ったかいがあったよ」

(桃と竹、違いはあれど赤ん坊を中に閉じ込める手口は同じ。十中八九同一犯だ)


 桃太郎は団子をまとめて口に放り込むと、「これお代と気持ちね」と金が入った袋を置いて立ち上がる。

「え……こんなに??」

「金は腐るほど持ってるから」

 人生で一度は言ってみたかったセリフを残して立ち去った。

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