三匹のお供

「おーい、何やってんだ!」

 通りかかった広場で桃太郎は甲高い声に呼ばれた。

 その相手はかつて一緒に鬼ヶ島に渡り鬼退治をした猿。隣には犬とキジの姿もある。

「おいおい昼間から酒かよ。まったくよ~良い身分だな」

 おじいさんの時とは違う砕けた喋り方で桃太郎もお供たちの輪に加わる。


「なんだ桃太郎、辛気臭い顔して。お前も一杯飲むか?」

「いただくよ──って言いたいところなんだけど、ここでのんびりしてる訳にもいかねぇんだ」

「何かあったのですか?」

 とまり木で羽を休めていたキジが心配そうに目をくりくりとさせる。

「この村から出ていくことになった」

「それはまた……」

「おじいさんが働け働けうるさくて。これ以上ぶつぶつ言われるくらいならいっそのことこっちから出て行ってやろうって」

「行くあてなどなかろうに、お主は馬鹿じゃのう」

 犬は陽だまりの中で気持ちよさそうに伸びをする。

「俺だって飯食って屁ぇこいて寝てたいよ。でも人間ってのは世間体を気にするから……こんな英雄にまで働けっておかしいと思わねぇか?」

「いーや、じいさんの言うことが正しいね」

「そういうお前も働いてないだろ」

「馬鹿言うな、オレは猿だぜ?」

「前々から思ってたけどお前本当に猿か? そもそも人間の言葉喋れるっておかしいだろ」

 化けの皮を剥いでやろうと手を伸ばすが、猿はスルスルと木を登って逃げる。

「冗談だって。それよりもお前たちに話があるんだ」

 桃太郎は手招きをして三匹のお供を呼び寄せた。


「また俺と一緒に旅しようぜ!」


 子供のように無邪気な笑顔の桃太郎とは対照的に、お供の表情は険しい。

「旅というのは具体的にどちらにいかれるのでしょうか?」

「俺が桃から生まれたってことは知ってるだろ? つまり誰かが俺を桃の中に閉じ込めたってことだ。そいつを見つけてぶっ飛ばす」

「桃太郎の両親って桃だろ。だったらもうおじいさんとおばあさんに食われてるだろ」

「桃が両親なわけねぇだろ。赤ん坊の俺を桃に入れて川に流した奴が絶対にいる」

「それが本当の両親だった場合、暴力で解決するのでしょうか?」

「もちろん。運よくおばあさんに拾われたからよかったけど、普通ならそのまま死んでるぞ!? ここ数年その犯人のことが頭から離れなくてな、良い機会だからそいつを探す旅にする」

 協力を求める桃太郎だったが相変わらず反応は芳しくない。


「どうした猿?? 一緒に行こうぜ」

「嫌だね」

「おばあさんに頼んできびだんご作ってもらうからさ。お前あれ大好物だったもんな」

「こちとら一生遊んで暮らせる金があるんだ。食い物にもメス猿にも困らねぇのに、きびだんご如きで釣られるかよ」

 猿は小馬鹿にしたように笑う。

「薄情な野郎だ。鬼ヶ島でも後ろでコソコソしてたような奴には期待してねぇよ」

 桃太郎は猿の勧誘を諦めてキジに視線を向けた。

「お断ります。鬼ヶ島の時と違い、今回の桃太郎さんの旅には賛同できません」

 言う前にピシャリと断られたのが痛快だったのか、猿が手を叩いて笑う。

「あいつらはやっぱりダメだ。俺が最初から信頼してるのは犬──お前だけだよ」

「鬼退治から何年経ったと思っとるんじゃ。当時は成犬じゃったワシも今では余生を楽しむ老犬じゃ。とてもじゃないが旅なんか付いていけん」


 お供全員から見捨てられた桃太郎は大仰に両手を広げる。

「あーもう分かった! この村に俺はいないからな!? それでもいいんだな!? 鬼に襲われても知らねえからな!!」

「食っちゃ寝で屋敷暮らしのお前は知らないだろうけどな。もうこの村と鬼の関係は良好なんだよ」

「鬼と関係良好だとぉ!? バカが簡単に騙されやがって」

「負け惜しみ言ってねぇでさっさと行けよ。土産話楽しみにしてるからな」

「うるせぇ! 鬼に食われて死ねッ!」

「さっきの言葉は撤回だ。二度と帰ってくるなこのボケッ!!」

 こうして桃太郎はお供たちに中指を立てて村を出ていった。

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