第34話『呪いの勇者の鉄拳制裁』
「クゥーン……」
「お前、変な鳴き声なんだな。犬みたいじゃないか。」
「まだこれでも幼体なんだと思うよ、カケル」
大体の治療を終えて、マリエルやアリアドネの為に用意していたポーションを黒竜に使用して、何とか回復の兆しが見えてきた。それにしても妙な鳴き声だ。珍しい種類なんだろうか。
エリクシアは博識で生物には詳しいというのもあり、黒竜について話しを聞くことにした。
黒竜は珍しい種類で、個体数が激減しているという。減っている理由がまた酷いんだが、黒竜は忌み嫌われる象徴であり、真っ黒な不気味さから不幸を招くとして、人間に殺されていた種族らしい。
基本、物静かで人に危害などは加えないんだけど、古くから伝わる因習がある。その事もあって、ギルドは俺達に黒竜討伐を依頼したんだろうな。俺達なら絶対に殺さないと見込んでの事だろう。
それにしても許せねぇよな。そんな事情も知らない智治達が、無害の黒竜に手を出したのがこの有様だ。一発ぶん殴りたい気分だぜ。
黒竜の動きが落ち着いてきた時に、信じられない異変が起きていた。その異変は、上位種しか起こせないことらしく、俺とマリエル、アリアドネは度肝を抜いてしまった。
ーー、ポンッ!
「クゥーン!」
|(あれー!? 小さくなったんですけどー!)
あんなに大きかった黒竜は、俺の肩に乗る程の小鳥程度の姿に変貌していた。勘弁してくれよ、上位種だったの? それにしたって急すぎる。俺の思考が追いつかない。それでも、何とかまとめ上げて結論を導くことにする。
「よし、こいつを屋敷で飼おう」
「カケルさん正気ですか!? 急に巨大化でもされたら、屋敷なんて簡単に消し飛びますよ!」
「多分大丈夫だろ。俺達に懐いてそうだしな。コイツ無茶苦茶可愛いぞ!」
「子供は嫌いな癖に、動物は好きなんですね……」
「何とでも言うがいい。俺は黒竜を飼うと決めたんだ!」
今まで辛かったよな。人間に殺されかけて、妙な儀式には利用されて。普通は、人間なんか嫌いになってもおかしく無いのに、こんなにも懐いてくれるんだから。
お前も俺と『似た物同士』だったんだな。人間の悪行によく耐えてくれた。だから、今からは俺達と幸せになって欲しいと思うのです。
「俺達と一緒について行かないか?」
「クゥーン!」
「何だ! 行きたいのか! 俺達と一緒に行こう。お前も一発かましたい相手がいるだろう?」
悲しい過去や、苦痛を背負う黒竜に、俺はパーティに引き入れる事にした。仲間になったんだから、ずっと黒竜って呼ぶ訳にもいかないよな。エリクシア達と共に、黒竜の名前を決めることにしよう。
散々話しあった結果、名前を『ブレッド』と命名し、俺達は黒竜は無害であったと、ギルドに報告する為にそのまま下山することにした。
ーー愛してあげたい家族が、また増えたんです。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あの忌々しい黒竜に、深い痛手を負わせてやったんだ。俺のライトニングソードの格好良さに惚れただろお嬢さん。付き合ってやってもいいんだぜ?」
「はい、全くかっこよくありません、帰って下さい。後、私は貴方とは交際しません、帰って下さい」
何回帰って下さいって言うんだよと、ツッコミを入れそうだったが、それで正解だったと思う。エリクシア達を連れて、ギルドに帰ったかと思えば、なぜかアクアが智治に言い寄られていたからだ。
何を自慢げに話してるのか、気になってアクアを助けてやるついでに、智治の背後から圧力をかけてやることにした。首狩りの王以来だし、自分の無能さが露見した後の事だから、俺が怖くて震えてるんだろう。
でも許してやらねぇよ。俺の仲間を傷つけたら、殺すと忠告もしているんだから。智治が、アクアに自慢していた話について、問いただすことにした。
「ーーさっきの話、詳しく聞かせろよ」
「か、カケルか!? 俺は成長したんだよ。黒竜程の害鳥を手負いにしてやったのさ!」
「もしかして、コイツのこと?」
俺の肩に乗る黒い鳥を見た瞬間、智治の顔が真っ青に青ざめていた。まぁ、そうだろうな。俺の忠告はしかと耳に焼き付けてるだろうし、いつからまでは分からないだろうが、黒竜が俺の仲間だったなんて知らないだろ。
己の命の危機に震えが止まっていない様子で、実に滑稽な姿だったよ。言い訳しようにも、ギルド全体で智治の自慢話が広がってんだから。
「い、命だけは取らないでくれ!」
「ーーは? うちのブレッドだって、同じ思いして怖がってたんだぞ? それを一方的に攻撃したのは、お前じゃないか」
「許してくれ! 悪気はなかったんだ!」
「悪気もクソもねぇんだよ。言ったよな、俺は仲間を護る為なら何だってする。まぁ、今回だけは許してやるよ」
「良かったよ。礼を言っーー」
何か言ってたみたいだけど、よく聞こえなかったな。しょーもねぇ言葉なんか、要らねぇんだよクソやろうが!
俺は右拳を、ブレッドは左翼を智治の顔面に一発、ぶち込んでやった。最高に気持ちの良い瞬間だっただけあって、ブレッドと顔を合わせてニヤついてしまったよ。
「ーー、けっ!ざまぁ!」
「クゥーン!」
完全に伸びてしまった智治を、ギルドの救助隊が駆けつけて治療室に運ぶ。その様を見届けると、ギルド内で喝采が上がっていた。
いけ好かない野郎だしな。ギルドの冒険者も嫌な顔してたんだろう。思わぬところで仕返しも済んだしブレッドと共に屋敷に帰ろう。
これにて、呪いの勇者である俺の鉄拳制裁は幕を下ろした。
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