第33話『呪いの勇者は、ドラゴンと相対する』


 「後始末は、アクアに任せたからな。解毒剤を渡してあげてくれ」


 「いつもやる事が無茶苦茶なのよ! ギルド本部も、さぞ嬉しがるでしょうね」


 拘束した盗賊団の身柄を引き渡し、ララとママをアクアに任せて俺とエリクシア達は、この山頂に居るドラゴンの討伐任務に引き続き行くことにする。


 ララが少し寂しそうだけど、そんな顔されたら次の任務に行き辛い。俺も親心が芽生えてしまったんですかね。可哀想だが、アクアに任せておかないと返って危ないし、戦闘になったら護りきれないからな。


 「パパ〜、行っちゃうのー?」


 「パパは大事な用事があるんだ。帰ったら、また遊んでやるから期待しとけよ!」


 「うん! 我慢するー!」


 何の穢れの無い笑顔が、突き刺さって痛いんだけど。柄にも無いことするもんじゃねぇな。正直言って、パパと呼ばれるのはあまりいい気はしなかったけど、あそこまで慕われたら考え深いものがある。


 「パパ〜。ママを助けてくれてありがとー!」

 

 こんなに感謝されるなんてな。昔の俺なら一切喜ばないが、今の俺やエリクシア達はララの笑顔を護ったんだ。誇りとして、その感謝を受け取りたい。


 みんなで精一杯の『行ってきます』をララに告げて、次なる目的地、山頂に生息するドラゴン討伐に、俺達は歩みを進めることにした。


♦︎♦︎♦︎♦︎


 「カケル、ララちゃん可愛いかったね」


 「そうだなエリィ。少し元気を貰えた気がするよ」


 別れを少しだけ名残惜しみながら、俺とエリクシア達はドラゴンが待ち受ける山頂まで目指していた。


 その道中で、アリアドネが俺の子供を産みたくなっただとか、マリエルに至っては、俺に犯されると煙たがったり、散々だ。言いたい放題言いやがって、肩身が狭くなるじゃねぇかよ。


 あんまりムカつくので、マリエルにちょっかいをかける事にした。いつも、やりたい放題だからな。日頃の鬱憤を晴らしてやることにしよう。


 「そんなに俺にツンケンしなくてもいいだろ! あーあ、出会った時は、あんなに可愛いかったのになー!」


 「あの時はあの時です。カケルさんは変態ですかね! 用心しておかないと!」


 「俺は、お前みたいなロリ趣味じゃねぇよ!」


 「カケルさん、嫌いです!」


 ーーバチンッ!!


 定番にありつつある平手打ちが炸裂して、俺は地面に突っ伏してしまった。本当にビンタが上手いよな。そういう才能でもあるんだろうか。


 時折思うが、ビンタをしてきた後は必ず、マリエルがボソボソと喋りながら頬を赤らめるのだが、訳が分からん。何を言っているのか今聞いてしまうと、更に怒らせてしまうだけだろうし黙っておくことにしよう。


 気を取り直して山頂に向かって進んでいくと、何かデカい影が上空を移動している事に気づく。その影の正体を何となく理解してしまった俺達は、空を見上げて絶句した。


 「流石にデカ過ぎるだろ……」


 大空を暴れ回る様な飛び方をしていて、巨大な黒竜が俺達の前に現れる。凶暴な竜が山頂を待たずして、姿を見せて来た事には心底意外だが、何やら様子がおかしい。


 よく見たら暴れてなんかいない。あれは、上手く飛べずにフラフラしているだけだった。傷でも負っているのかもしれないな。上空を眺めていると、力尽きたのか黒竜が翼の羽ばたきを止めて落下を始める。


 とりあえずは、状況を確かめないといけないので、黒竜を保護することにする。落ちゆく黒竜に対して、マリエルに指示を出し、被害を最小限に収めようと試みた。


 「マリエル、詠唱開始!」


 「はい! スロー・ギアクル!」


 竜にデバフが効くか不安だったけど、キチンと効いてくれたみたいで助かったよ。そのまんま死んでしまったら、目覚めが悪いからな。


 ゆっくりと地面に着地して、黒竜はその場で倒れこんでしまった。疲労が溜まってたんだろうな。動けなくなった黒竜を調べていると、右翼に不可解な傷を発見する。俺はその傷口を見ただけで、誰がこんな事をしたのか一瞬で見抜いてしまった。


 「智治の剣でやられたらしいな。しかも、最近だ」


 「カケルさん、どうして分かるんですか?」


 「あいつの剣は特殊でな。傷口が稲妻のようにギザギザと入るんだ。こんな芸当出来るのは、智治しか考えられない」


 「全く、アイツら勇者はサイテーのクズ野郎ですね!」


 怒りたい気持ちも分かる。それでも、今回のギルドクエストはドラゴンの討伐なんだ。本来ならば、ここで殺すべき何だが、それではこの黒竜が浮かばれないだろ?


 ーー俺は、殺すような選択を絶対にしない!


 何を迷う必要があるんだよ。この竜だって、好きで暴れていた訳では決してない。智治達が、考え無しに黒竜へ攻撃したことが今回の原因だ。余計なことして、傷つけて、その全てに憎悪が湧く。


 「マリエル、カバンから治療薬と包帯を持って来てくれ」

 

 「やっぱり、カケルさんらしいですね。分かりました、すぐに持って来ます!」


 俺は、この黒竜を生かす選択をした。もしかしたら、悪いことなのかも知れないが、知ったこっちゃねぇよ。


 ーー俺達は、護ると決めたもんは死んでも護り通す。

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