第二話 春の出会いは少しだけ楽しみ


「オラッ!」


金剛は俺に向かって突進しながら蹴りを入れてくる。さすが喧嘩慣れしているって所だろう。素人ながらも理に適った鋭い蹴りをしてくる。


「だけど、そんな蹴りだと擦りもしない。」


俺は身体を半身に避けて棒術の構えから金剛の胴に棒を容赦なく叩き、打ち込む。


「ってぇな。クソがッ!!」


金剛は俺の棒術が厄介だと思い俺から武器を取り上げようと棒を右手で掴み奪い取ろうとする。


「俺の棒術はこんなのも出来るんだぜ。」


俺は棒の持ち手を変えてから円を描く様に棒を捌くき金剛自身を突き飛ばす様に突くと、掴んだ金剛の右手は勝手に離されただけでなく後ろに倒れ込む。


「なんだ?随分と厄介な武術じゃあねぇかよ?」


「当たり前だ。俺の武術は他の武術とは訳が違う。武術本来の技。つまり人殺しの技だ。」


「ははっ!!面白ぇえ!面白ぇなぁぁああ!!」


まるで、今この状況を面白がる金剛の考えには到底、理解出来ない俺だが、何となく感で分かる。【コイツを止めるのは、かなり骨が折れそうだな。】って事は嫌でも分かる。


俺の使っているのは、唯の棒だ。でも、唯の棒じゃない。地面にある鉄分を錬成して《金属》で出来た棒だ。鉄だけじゃあ重すぎるから他に比較的軽い金属も練り合わせた俺特製のエモノだ。


普通だったら金剛自身が骨折とかしても可笑しくない。ソレにさっきは金剛の胴を目掛けて打ち込んだはずなのに肋骨の1本や2本くらい折ってても不思議じゃない。


幾ら奴の身体が筋肉で覆われているとはいえ、不自然だ。魔物だから人間とは強度が違うのか?

いや、そんな簡単な話じゃない。皇の武術は元々、人殺しの殺人術だが、その技は魔物でも通用するように俺自身の身体も強化されている。


「なんか、グダグダと考えているようだけど、やっぱり邪魔だな。お前が持っている棒は打撃も出来る。それに掴んでも話されて投げられる。」


「それだけじゃない。関節だって極められるさ。」


「はは~ん!コイツは面白ぇな!なんなら俺もコレ殺ってやるよ……」


金剛は両腕を構えた瞬間に左右の拳から鉤爪の様な物が金剛の皮膚から突き破って現れた。


金剛 骸は拳から三本の鉤爪を出し、不敵に笑う。こいつ、本当に戦いを楽しむ戦闘狂だ。まるで戦いに死に場所を探す様な奴の目だ。


「行くぞ!」


金剛 骸は地面を蹴り出して一瞬で俺との間合いを詰めて、その鋭い鉤爪で俺を斬り裂こうとするが金剛の速さは確かに速いが見切れないほどじゃない。俺は普通に避けたつもりだった。


「痛っ……」


金剛の鉤爪が当たった感触は全くなかったし、ましてや掠りもしなかったのに、俺の服が鉤爪で切り裂かれ胸や腹には鉤爪で引っ掻かれた傷跡があり、血が滴り落ちる。


「悪りぃな。俺の鉤爪は硬くて鋭くて痛いんでな!!」


金剛は俺に考える隙を与えんと再び地面を蹴り出して俺に突進してくる。避けてもダメなら防ぐまで。


俺は錬成された金属の棒で鉤爪を受け止めようとしたが、バターのようにグニャリと食い込み切られてしまった。


「ちっ……」


俺は気流を読み取り地面に鉱物がある事を理解して手を置き、鉱物を分解して再構成して地面から屈強な壁を錬成しようとしたが金剛はソレを許さない。


「させるかぁ!!」


「がはっ……」


「トドメだぁ!!」


金剛は身体を回転させて鉤爪で俺の身体を高速で切り裂き俺は宙に舞い、重力の法則で地面に叩きつけられる。


なんとか受け身を取って余計な身体の損傷を増やさなかったが……


マジで痛い……姉ちゃんに稽古で骨を折られて筋肉をズダズタにされて内臓が破壊される寸前までボコボゴにされたけど……


こんなふうに切り裂かれた痛みは初めてだし、血が止まらねぇし、頭はクラクラするし……


「ハハハッ!!久しぶりに骨のある奴と戦えて楽しかったぜ。だが残念だな。俺の方がウワテみたいだったな。」


金剛は何か言ってるけど正直、耳に入ってこない。正直、言ってコイツはマジで強い。白兵戦なら俺よりウワテだわ。


俺は何とか意識だけ保つのに必死だった。だけど身体は言う事聞いてくれない。痛みで身体が悲鳴を上げてる。これ以上、動くと危険だって言ってる。


だけどこれだけは言える。


俺は負けねぇ……絶対に負けられねぇ!!


「一哉!!」


立ち上がろうとする俺に透き通る様な声に赤い髪の女の子が俺の名を叫ぶ。


絵里だ……



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私立 御伽学園 藤田吾郎 @jokre

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