第二話 春の出会いは少しだけ楽しみ

金剛はもうブチギレ寸前だろう。こんなに力強く自分の計画とやらを熱く御高説に語ったにも関わらず、その神経を逆撫でにする俺の言葉には金剛のプライドはズタズタだろう。


だが、俺は構わず言い続ける。


「計画って言われても俺に知ったことじゃねぇし、それに復讐ってさ。お前、頭悪いだろ?」


「うるせぇ……」


「それに暴力や恐怖の支配なんざ長続きしない。それは歴史が証明している。」


「黙れ……」


「お前のやっている事は自分の思い通りにならない子供が駄々をこねてヒステリックに暴れてるだけだ。」


「黙れ!くそガァッ!!」


金剛は目の前にある学校の壁を拳で殴り付ける。怒りに任せた殴った拳は壁に拳の形に綺麗に抉れていてる。


「半殺しにしてやろうと思ったがテメェは殺す。首を晒して俺が強いって事を証明してやる。」


「強さねぇ。お前の強さなんてチンケな価値観だな。だが否定はしないな。それが、お前の信じた【強さ】なら、俺は俺の信じた【強さ】で応じる。」


「何を言っているか分からねぇが俺がやる事は1つ。皇をブチ殺す事だ。あと、お前。あの変な術を使えよ。俺は本気になった奴をブチ殺すのが好きで仕方がないんだ。それに俺は人造人間だ。俺の姿を見てビビるなよ。」


すると金剛は姿を変え始める。


顔はあの少なからずイケメンの部類に入る金剛の顔は不気味な隻角の髑髏。細身の身体は一回り、いや二回りも筋肉で覆われ始める。


「どうだ?皇。俺の本来の姿はよぉ?ビビったかビビるよなぁっ!!この姿で戦った奴は少なくても俺に勝ってはいねぇぞ!!」


そうか、どうりであのコンクリートで出来てる学校の壁が綺麗に抉られた訳か。


あの細身の身体付きから、どうやってコンクリートで出来た壁が抉られたか不思議だった。人間じゃない奴だからって思えば不思議じゃないが、あの姿を見れば納得が行く。


あの筋肉の量なら、簡単だし、殴っても自分の手を痛める事はまずない。


これじゃあ素手で相手にするのは賢明じゃないな。


俺は気流を読み取り地面に鉱物がある事を理解して手を置き、鉱物を分解して再構成すると約1メートルくらいの棒を形成する。


【皇流半棒術(すめらぎりゅう はんぼうじゅつ)】。皇の家に伝わる対武器もしくは自分より強い敵と戦う武術。


姉ちゃん。俺、人生初の喧嘩してくる。


一方教室では絵里とトラに伊織が3人で固まり重苦しい雰囲気の中で絵里が口を開く。


「ねぇ、一哉は大丈夫だよね?無事に帰ってくるよね?」


「分からぬ。聞いた話では、あの金剛という輩に目を付けられた者は無事に帰ってはきてないと聞く。」


「実際に金剛と他の不良数人と喧嘩しているのを魔界の警備隊が止めに入ったら、金剛を除くその不良達、警備隊が全員が魔界病院に送られたとか。」


「そんな……」


トラと伊織の話を聞いて顔を俯かせる絵里。すると何かを決めた様に絵里は歩き出して教室を出て行く。


「お嬢!何処へ行くのですか?まさか……」


歩き出す絵里を伊織が止めようとする。そして、絵里は振り返り力強く言う。


「一哉を助けに行く。伊織。」


「危険です!もし、皇を助けに行けば今度はお嬢が金剛に目を付けられてしまいます!」


「それでも……それでも助けに行かなくちゃ!!だって、私と一哉は友達だもんッ!!友達が危険な目にあってるのに助けに行かないなんて私には出来ないもん!ほっとけないもん!!友達が傷付くくらいなら、まだ私自身が傷付いた方がマシだもん!!」


絵里は目から落ちるひとすじの涙を零れ落とし再び歩き出す。ソレを着いて行く形で伊織も歩き出す。


「無駄よ、伊織。伊織が止めても私は一哉を助けに行くもん。」


「いえ、わっちは、お嬢を止めません。お嬢が行くと言うなら私は着いて行くだけです。もし、お嬢に危害が加わる様な事が起きれば、わっちはお嬢を守るだけです。」


「有り難う、伊織。いつも迷惑掛けてゴメンね。毎回、私のワガママに付き合わさて、振り回してゴメンね。」


「いえ、お嬢のワガママは今に始まった訳ではございません。わっちは迷惑だと思った事もございませんし、振り回されたと思ってもございません。わっちが、お嬢に着いて行くと勝手に決めたのです。」


絵里と伊織の後ろ姿を見たトラは溜め息を一つ。


「やれやれ、カズ。お主はどうやら中々の奴に出会ったようだのぉ。さて拙者も折角、気の合う奴と出会えたのだから少し手助けに行こうかのぉ。」


またトラも歩き出す。友を助ける為に。



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