第二話 春の出会いは少しだけ楽しみ

「それにトラちゃんには一時期だけどバイトとしてね用心棒を雇ったの!」


「いやぁ~……財布を無くして食う物に困っていてのぉ。三食飯付きで住み込みの用心棒を雇って頂いた時は助かったでござるよ。」


「それにね一哉。トラちゃん凄いんだよ!」


「そんな事はないでござるよ。」


「そんな事ないよ!だってトラちゃんは私のボディーガードを50人抜きしたんだから!」


「いやいや。『伊織』殿とは引き分けではないか。」


トラの奴。絵里の家で雇われの用心棒をやっていたから絵里の事を知っていたし絵里もトラを知っていたんだな……ってか、ボディーガード50人抜き?いやいや待て。


「それって、つまりアレか?絵里の家って?」


「カズ。知らぬのか?絵里の家。つまり、火咲家は魔界の四大貴族の家の令嬢じゃよ。火咲の他に【水奏(みずかな)】、【風華(かぜはな)】、【土萌(ともえ)】の合計4つの家がそれぞれ政治、軍事、経済、医療をおさめているのじゃよ。」


「おっ……おぉ。」


なんか色々と頭が追い付いてきていない。てか、絵里の家が超が付くお嬢様とか想像出来ないより信じたくないんだが……


「もうトラちゃん!一哉がフリーズしちゃってるじゃん!!でも一哉は私の家の事は気にしないで良いからね。私とトラちゃん。それに一哉とも家とは関係なく私の大事な友達だから!」


絵里は俺の手を差し出し再び俺と仲良しの握手を交わそうとした時に俺の後ろから殺気を感じ取り。俺は、すぐさまに身体を遠心力で回転させて横蹴りを殺気の主に向ける。


横蹴りを捉えたのは木刀を俺に向けて叩き潰すかの如く木刀を振り抜こうとする切れ長の目付きに黒髪ボブカットの俺と同い年くらいの少女。


「お嬢様に離れろ。この陰気男子。」


「随分な挨拶じゃない。お嬢ちゃん。それに小さなお子様がこんな物騒な物を持っちゃダメだぞ。お嬢ちゃんには木刀よりペロペロキャンディーが似合うぞ。」


「良い度胸だな。貴様。【花月流(かげつりゅう)】の継承者。花月 伊織(かげつ いおり)が相手をしてやろう。」


俺の足と伊織の木刀がギシギシと唸るかの様にお互いに睨み合い。火花がバチバチと飛び散る中で今にも教室が乱闘騒ぎになりそうな所で絵里が一言。


「伊織!止めなさい!!この人は私の友達なの!だからこの人には手を出してはダメよ!」


絵里の一言でただならない切羽詰まる緊張感が解放されたのと同時に伊織は木刀を納める。


「し、失礼しました。お嬢。」


「全く。ごめんね、一哉。この娘は花月 伊織。私の直属の護衛のアルラウネの女の子なのよ。決して悪い子じゃないの気を悪くしないでね。」


「ふん。」


伊織は何か気に食わないのかソッポを向き、もう一度、俺を見るなり睨み付ける。


面倒な奴だな。このヤロー。


「わっちは強い者しか認めん。お前の様な奴はお嬢の友人で無かったら叩き潰す所だったぞ。」


「なんだと?初対面で随分な言い草だな。この三白眼チビ。」


「わっちの何処がドチビ豆粒ミジンコだと?!」


「そこまで言ってねぇ!!」


すると伊織は再び木刀を取り出して構えて、振り抜こうとした時にまた絵里が大声を出す。


「2人とも止めて!!喧嘩しない!2人とも仲良く!」


「「ふん!!」」


どうやら俺は花月 伊織とは仲良くなれそうにないらしい。てか、何なんだ?あの態度はムカつくったらありゃしない。あんな木刀くらいなら俺の【皇流喧嘩殺法】で木刀を叩き割って、それからフルボッコにしてやるし。


「やれやれ。相変わらず伊織殿は男に対しては手厳しいでござるのぉ。」


「なんだ。虎児か。久しぶりだな。お前も、ここに入っていたのか。」


「まぁ、暇つぶしに。それにしてもカズに対しては少し突っ掛かり過ぎの様にも思えるが?カズはお主が思っているほど悪い奴には思えんがの?」


「随分とあの陰気な男に肩入れするんだな。お前は。」


「まぁ、話してみるとソリが合うみたいでな。話していると中々面白いものよ。」


「ふん。」


どうやらトラと伊織は知り合いみたいだな。そりゃそうか。トラは絵里の家で雇われの用心棒をやっていたんだし、それなりに顔は知っているんだから納得だな。


「おい、お前。お嬢の友人だから手は出さんが、お嬢に不埒な事をしてみろ。わっちが叩き潰すぞ″陰気″」



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