第二話 春の出会いは少しだけ楽しみ

絵里は口から舌をゆっくり出して、その舌を絡みつくように俺の人差し指を口の中に入れるとゆっくりと牙をその指に突き立てるとチクッと少し痛みが走るが一瞬だ。


「チュゥゥウウウウッ!!はぁ。美味しかった!」


血を吸われたけど、その可愛く目をキラキラした笑顔に免じて許すと思った俺であった。



まぁ、学校に到着してから教室に入ると特にクラスを見ると俺と絵里は同じクラスのようで絵里はピョンピョンとハシャギながら、そんなに俺と一緒のクラスが嬉しいのか。


「やったー!一哉の血がいつでも吸える!!」


一応、聞かなかった事にしよう。


教室に入ると何人か席に座っているけど受験の時に見た事ある奴もチラホラと見掛ける。あいにく絵里は俺と席が離れていてブー垂れながら自分の席に座る。


「お主、拙者と同じで獣の臭いがする。何者じゃ?」


「ん?」


俺は何処の時代の言葉遣いだよって心の中で突っ込みを入れながら後ろを振り向くと猫目でクセ毛で髪が長いのか髪を後ろに束ねた男子がいる。


てか、その言葉遣いもそうだけど机に立て掛けてある。白木の柄で拵え鈴の着いた日本刀が気になるんだが銃刀法違反じゃねぇの?


「なに?」


「お主は何の獣じゃ?」


一瞬だけドキっとするけど俺は服の匂いを嗅ぐ。そんなに獣臭いか?てか、今日降ろしたばっかりの制服なんだけどな。


「俺ってそんなに獣臭い?ペットとか飼ってないんだけどさ。」


「クククク……ハハハハ!面白いのぉ。お主は面白い奴じゃ。拙者は瀬島 虎児(せじま とらじ)じゃ。猫又の獣じゃ。あとこの刀は模造刀じゃから法律には引っかからんでござるぞ。」


すると猫目男子はキョトンとした顔をしながら俺を見ると下を向きながら笑い出して俺の事を気に入ったらしい。なんか入学初日で色んな奴に話し掛けられるな。


「俺は皇 一哉。よろしく。」


「よろしくでござる。カズ。拙者の事はトラと呼呼ぶでござるよ。」


今まで、誰一人として話し掛けられなかったのにな。なんだか不思議な気分としか言いようがない。


恐らくトラとはなんか気が合いそうな気がする。


ちらほらと新入生のクラスメイトが来る中で俺は暫くトラと話していた。トラは猫又の妖怪で好きな物は魚と団子に鯛焼きと緑茶が好きとか。刀に着いてる鈴はトラが猫又になる前の主人がくれた物とか。


トラと話していると俺も自然とお喋りになるようだ。今まで誰とも、こんなに話した事がなかった俺には新鮮な感覚だな。


「カズは何か武術はやっているのか?」


「まぁ、拳法と棒術をな。家がそんな家系だからな。昔からやってたんよ。」


「拙者は主人が剣術の道場をやっていてな。拙者が猫又になった時に主人の見様見真似で剣術をやって今に至るのよ。」


「そうか。トラの主人は今は?」


「亡くなったよ。」


「え?」


「拙者は産まれて直ぐに親に捨てられてな。そんな捨てられていた拙者が主人に拾われてな。たいそう可愛がってもらったよ。だが主人は病に掛かっていてな。主人には家族は居なくて最期は主人の弟子と拙者で見送ったのよ。それから主人が亡くなってから暫くして拙者は猫又となったのよ。」


「そうか。トラにもそんな事があったのか。」


「なに。カズが気を使う事はない。もう遠い昔の話じゃ。猫又になってから拙者は長く生きている。長く生き過ぎて退屈していたのでな。ちょうど暇つぶしになるかと思ってこの学校に入ったのよ。」


「そうだったんだ。俺もトラと同じで退屈していたんだよな。トラとは境遇が少し違うけどな。」


「そうか。ならお主と拙者はお互いに暇つぶしの相手になるかもしれんのぉ。」


「だな。」


俺とトラが話にちょうど踏ん切りが着いた後に担任の先生らしき人が教室のドアを開けてきて入ってきた。ってか受験の時にいたメガネのボイン先生だ。


「はーい、皆さん。お待たせしましたぁ~。このクラス1年E組の担任を持つ事になった紺野 千佳(こんの ちか)でぇーす。ちなみに私はユニコーン。よろしくお願いますねぇ。」


まぁ、なんか今更だけど俺って本当にアウェイな学校に入学しちまったんだなって思えてきたよ。


吸血鬼に猫又にユニコーンってさ。


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