プロローグ
すると俺は感情が抑えられなくなり【あの姿】になってしまう。血に飢えた目つきをした灰色と白が混じった獣。その立ち姿の四肢は今にも獲物に飛び掛かりそうな風貌。
「ダメよ。カズ君。家の敷地内とはいえ落ち着いて。」
「落ち着け?ふざけんなよ!俺は、この姿になってから友達を失くした!俺をボロクソ言う大人が出てきた!学校なんてツマラナイし!誰も俺を人なんて思ってない!」
「ううん。そんな事ないわ。カズ君がどんなになっても私の大切な弟よ。可愛くて仕方がない家族……」
「うるさいんだよ!なんなんだよ……俺はあんときに死んどけばよかったんだよ!」
すると姉ちゃんは俺の顔に平手打ちをした。
平手打ちした音が響く様に道場の中は静けさな雰囲気が漂うだけだった。
「カズ君。貴方は逃げているだけよ。今の現実に何かと理由を付けて逃げているだけ。担任の先生から電話があって進路も決めていないらしいじゃない。お願い。せめて高校だけは卒業して。」
「うるさい……うるさいんだよ!俺がどうなろうが俺の自由だろ!俺の人生に口挟むなよ!」
俺は道場の天井を突き破り、その場から立ち去る。まるで逃げるように。
俺は獣の姿のまんま家の裏にある山の中へ走り出す。行くあてもなく走り出す。【今の現実に何かと理由を付けて逃げているだけ】その言葉が俺の頭によぎる。
「クソォォオオッ!!!」
俺は叫びながら走り出す。俺を見るな。あんな悲しそうな目で俺を見るな。同情したように哀れみの目で俺を見るんじゃねぇよ!
走り疲れて足を止めると俺は水辺に写し出される俺の顔を見る。なんて化け物の姿なんだ。こんな姿で楽しい事や嬉しい事なんて起こるはずもない。俺は一生、独りぼっちなんだよ。
俺は、もう友達なんて出来ないし。恋人だって作れない。好きな人と結婚して子供と一緒に遊んでもあげられない。孫に囲まれて永眠する事も出来ない。
そんな人生が嫌で嫌で仕方がない。
もう……寂しいのは嫌なんだよ……
「カズ君。やっぱり、ここに居た。」
「……」
「少しは落ち着いた?」
「……」
何にも答える気が起きない。今は1人にしておいてほしい。それが今の俺が出来る精一杯の姉ちゃんに対する反抗。
だって見られたくない。15歳になって姉ちゃんに泣いている姿を見られるなんてな……
「カズ君。お腹空いたでしょ?お姉ちゃんがいっぱいご飯作るから戻ろう?」
「うん……お腹……空いたよ。姉ちゃん……」
姉ちゃんは後ろからぎゅーっと抱きしめながら俺の頭をヨシヨシと撫でてくれた。その優しさと温もりが俺は嬉しかった。
あと胸の感触も忘れそうにない。
腹が減り過ぎたのか、いつも以上に晩飯をガッつく俺。どんぶりの御飯を何回もお替りしているけど中々お腹いっぱいにならない。
「御飯お替り。」
「ごめんね。カズ君。もう釜のご飯がないの。」
「ちぇ……」
姉ちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら言ってくるから俺はまぁ、腹6分目くらいで勘弁してやった。明日の朝飯はなにかな?
晩御飯を食べたばっかりなのに、もう明日の朝飯を楽しみにしている食いしん坊な俺。
「それよりカズ君。これを見て。」
「ん?」
俺はお茶をすすりながら姉ちゃんから渡されたチラシを見ると高校の案内が書かれたチラシだった。ってかこんな学校あるのかよ?なんか胡散臭い学校だな。
まず名前だ。【私立 御伽学園】名前からして怪しいよな。あと受験内容だ【成績表をもって面接すればOK】ってどこのブラック企業みたいな学校だよ?あと【ピアスOK。毛染めもOK。制服じゃなくて私服でも……OK】ってどこのモデルさんだよ。
【自由な校風でのびのびとしたハイスクールライフを!!】【卒業条件は退学にならなきゃ大丈夫だよ!授業昼寝しても卒業出来るし!勉強が出来ないバカでも素行の悪い不良もウェルカム!!】ってこの学校が色々と心配だよ俺は……
「分かったよ。そこの学校に受験するよ」
「本当に?!お姉ちゃん嬉しいわ!」
もうヤケクソだよ。なんか高校なんて何処でも良いよ。コレで駄々をこねたら姉ちゃんにシバき回されるよ。
【学食がなんと食べ放題!】の言葉に受験しようと思った俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます