プロローグ

畳に倒れると響く道場。


「ふふふ。さぁ、おいでカズ君。」


「全く何のイジメだよ。」


ギリギリと俺は姉ちゃんに手首を極められて地面に這いつくばる様に倒れて身動き一つも取れない。見た感じアッサリと起き上がれそうだが手首の関節を完璧に決められてる。


俺は無様にタップすると姉ちゃんは極め技を解き俺は立ち上がる。


「やれやれ。手加減なしかよ。」


「敵の前で手加減すると自分の命が危ないでしょ?」


姉ちゃんは普段は温厚で優しいが修行に関してはサディストで人を壊す事に躊躇しないスパルタ人間になる。


ってか、完璧に目が据わってやがるよ。怖い怖い。


「行くぜ姉ちゃん。」


「敵にワザワザ攻撃宣言するなんて甘いわよ?」


「ったく。」


俺は構えた状態から足を蹴り出して姉ちゃんとの距離を縮めて右の縦拳を繰り出すが姉ちゃんは簡単にヒラリと足運びで避けるがコレはジャブみたいなもんだ俺は横蹴りを食らわすが姉ちゃんは俺との距離を離れず距離をつめて俺の襟と袖を掴み投げる。


「ちっ!」


「フェイントが上手くなってきたけど、もう少しね。」


俺は綺麗に宙を舞い、また畳の上に叩きつけられるがどうにか受け身を取り俺の視線は天井を見ている。


はぁ……相変わらず強ぇ。


「まだやるわよ。」


「マジかよ……」


倒れている俺に姉ちゃんは寝技を仕掛けてきやがった。決して夜の寝技じゃないからな?


姉ちゃんは俺を締め落とすマンマンで三角締めを仕掛けてくるが俺はなんとか避けて立ち上がる。


「はぁはぁ……」


「ふふふふふ。」


全く、一瞬でも油断したら完璧にやられるな。


俺は深く息を吐き、集中力を高めて全ての神経を研ぎ澄ます。


俺は無言で蹴り上げ姉ちゃんとの距離を縮めるが戦いにおいて強い敵に真っ直ぐ突っ込むのは愚策。真っ直ぐに突っ込んだつもりであろう姉ちゃんは俺に拳を振り抜く。


だが俺は一瞬だけ動きを止めると振り抜かれた拳は俺に届く事はない。


その振り抜かれた拳の袖を俺は掴み遠心力たっぷりに身体を回転させるが姉ちゃんは投げられないように後ろに重心を掛けて踏ん張る。


俺の狙いはここから。


すぐさまに姉ちゃんの足を刈り姉ちゃんを後ろに倒す。


「やれやれだぜ。やっと……一本取れた……」


おれが一本取るまで姉ちゃんに、かなり一本取られたぜ。かなりボコボコにされたし姉ちゃんが天才なのが嫌っていうほどに身に染みたぜ。


「はい。今日はここまでね。」


「かれこれ1時間半くらい稽古やってたんだな。」


「カズ君もずいぶん稽古が出来るような身体が出来たのね。」


俺の家に伝わる武術は【皇流喧嘩殺法】。敵に対して殺す事だけを極めた武術。人体の身体を破壊する極意。俺は姉ちゃんに何度も何度も骨を砕かれて筋肉を引き裂かれ、内臓器も皇の家に伝わる秘伝の薬を飲まされて自己治癒力を高められた。


骨を砕かれ、筋肉を引き裂かれた事によってより頑丈な骨と筋肉を作り出された。


だから俺は滅多な事では身体が壊れないし簡単には死なない身体って姉ちゃんに言われた。


てか、そんな事を言われても日常にそんな危険がある訳じゃないから、にわかに信じられないんだけどさ。


「確かにカズ君は、だいぶ稽古も出来るようになったから身体はもう出来上がってきたね。でも無理しちゃダメよ。」


姉ちゃんは起き上がって俺に膝枕をしながら頭を撫でる。恥ずかしくて勢い良く起き上がろうとするがボロボロの俺には抵抗も出来そうにない。


姉ちゃんの膝枕……嫌いじゃない。


「でもね人の身体って無理をすると簡単に壊れちゃうの。だけど大切に使えば人間の身体は長持ちするの?」


「別に俺は長生きなんてしようと思わない。」


「そんな事、言っちゃダメよ。カズ君はまだ15歳。これから楽しい事や嬉しい事だって……」


「ないよ!ある訳ないだろ!」


俺は声を荒げて立ち上がる。楽しい事や嬉しい事なんてある訳がない。


「そんな綺麗事なんて誰が信じるか!こんな……こんな化け物の俺が!!」




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