プロローグ

それから俺は姉ちゃんが術式を施したネックレスで、ある程度だが感情が高ぶっても化け物の姿にならない様に一種の封印で何とか人間の姿を保っている。本当にある程度にな。


だから今はそれなりの喜怒哀楽を出しても大丈夫って訳だけどさ。1回、友達と戯れて遊んでた時にネックレスの紐が切れて見られちまったんだよな。


遊んでる時って無邪気で楽しいからさ。化け物の姿を友達に見られたんだよ。


俺の化け物の姿になった時の友達の顔……


酷く怯えて今にも泣きそうな顔だったな。


だってさ。自分で鏡を見た時でも自分が怖いくらいに雄々しい獣の姿を見ると本当に俺は化け物なんだなって思ったよ。


その姿を見た姉ちゃんはすぐに俺の姿を見た友達に術式による記憶の隠蔽をした。


それと同時に姉ちゃんは友達に俺との過ごした記憶や思い出も全て隠蔽した。


友達を無くした瞬間でもあった。


俺が独りぼっちになった瞬間。


この外の世界が灰色に変わった時だったんだ。


それから俺は1人になって感情を押し殺して、目立たない様にして、周りを気にしながら誰とも話さず、遊ばず、関わらずに今まで生きてきた。


感情を押し殺すと喜びも怒りも哀しみも楽しみも何にも感じなくなる。無表情になるとこんなにも心が落ち着くってのが分かった。


目立たないように生きると、こんなにも影のように動けるから自分のペースで行動が出来ると分かった。


誰とも話さず、遊ばず、関わらずに生きていると1人が気楽と言うのが分かった。


でも、それを手に入れたと同時に付いてきたのが孤独と退屈だった。


1人でいる事で毎日が同じ事の繰り返しで退屈だというのが分かった。1人でいると自分が楽しかったり悲しかったりしても誰も共感してくれない孤独が分かった。


誰のせいとかじゃない。幼き頃の俺が運が無かっただけだって思えれば、どれだけ楽だったんだろう。この何とも言えない理不尽を受け入れたら、どれだけ心が軽くなっただろう。


きっと、この悩みは誰にも理解されず一生を迎えるんだろうな……


そんな事を考えていると、いつの間にか家に着いた。


「お腹、減った……」


ちょうど、オヤツの時間だから俺の腹の虫が少し不機嫌のようだ。


俺は玄関の扉を開けて靴を脱いでからリビングに向かうけど誰も居ない。姉ちゃんは恐らく神社の仕事をしているのだろう。取り敢えず腹が減ったので台所の冷蔵庫を漁ることにする。


「お腹、空いたな~……」


俺の腹の虫は時間が経つにつれてドンドン不機嫌になっていく。全く、気が短いものだ。


冷蔵庫の中を漁るとプレーンのヨーグルトを発見。プレーンのヨーグルトは砂糖が入っていない甘くないやつだから、トーストに使うジャムを入れると美味しいからジャムを入れてヨーグルトを食べる事にする。


テレビをつけて適当にリモコンでチャンネルをまわすけど特にやってるのは夕方のニュースぐらいだからボォーっとしながらニュースを見てブルーベリージャム入りヨーグルトを食べる。


「今日の晩御飯はなんだろ?」


俺以外は誰も居ないリビングでヨーグルトを食べながら今日の晩御飯を楽しみしている。姉ちゃんの料理はどれも美味しいから毎日が楽しみなんだよな。


暫くしてから姉ちゃんが帰ってきて、肩が凝ったのか自分で肩をトントンしながらリビングに入る。


「あら、カズ君。お帰り。学校はどうだった?」


「普通。それより、お腹空いたよ姉ちゃん。」


「もう!カズ君!大きいヨーグルトまるまる一つ食べたのにお腹空いたって幾つになっても食いしん坊ね!それにお姉ちゃんが帰ってきたら『おかえり』とか『お疲れ様』とか言えないの?」


「……お腹空いた。」


「もう!すぐに晩御飯の支度するから待ってなさい!」


姉ちゃんはプンスカしながら巫女服を脱いで普段着に着替える。てか、年頃で思春期の弟がいるのに、よく生着替えとか出来るね。もちろん実の姉にムラムラなんてしないけどさ。姉ちゃんにも恥じらいくらいは持って欲しいよ。弟としては。


「そういや姉ちゃん。太った?」


その言葉がいけなかったのか、すると姉ちゃんはピクっとして普段着に着替えるのを止めて胴着に着替え始めた。その意図を知った俺は血の気が引くほど後悔した。


「カズ君。久し振りにお姉ちゃんと組み手の稽古しようか?もちろんやるよね?」


完璧に目が据わった状態の姉ちゃんの頼みを断ったら……殺される。


うん。組み手でも恐らく半殺しにされるんだろうけどさ。



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