プロローグ

「おい皇。」


「何ですか?先生。」


俺は帰ろうと思った時に担任の先生に呼び止められてしまい立ち止まる。


「お前、まだ進路希望の紙を出してないだろう?」


「先生。前にも言いましたが俺は高校には行かないつもりです。中学を卒業したら家の手伝いをしたいと思ってます。」


「だがなぁ皇。お前の成績なら県内の公立に私立は何処へでも行けるんだぞ?それに上を目指そうと思えば難関進学高校へも安全圏で合格出来るし、学校推薦で国立の高校も……」


「それでも俺は高校に行く気は全くありませんので。話はそれだけですか?他に用がないならコレで失礼します。」


俺は担任の先生に一礼してから、さっさと下駄箱で靴を履き替えて校門を抜けて歩いて自宅に向かい歩き始める。なんだか珍しくイライラしてくる。俺は歩くペースを早めて自宅へと早歩きする。


だいたい俺には集団行動なんて向かないんだ。人がいる所が嫌で嫌で仕方がない。鬱陶しく思えてくる。1人になりたいのに世の中はどうして俺を1人にさせてくれない?


実は俺の家は由緒ある昔からある神社。それも普通の神社じゃない。人々に恐怖を貶める妖や魔物と言われる不浄の物の怪を封印、消滅させる退魔師の家系だった。父さんも母さんも退魔師だった。


父さんと母さんは俺が産まれて間もない頃に稀代の大妖怪を消滅させるために命を掛けて、この世界を守ったって姉ちゃんや親戚の人達から聞いていた。だから、姉ちゃんと俺で皇神社を受け継いで、世の中の人達を妖や魔物から守ろうと姉ちゃんと約束した。


でも姉ちゃんは天才だった。武術に退魔の術式や式神召喚に占い。全てにおいて完璧だった。人柄も良く周りから慕われていた姉ちゃん。


そんな俺は普通の退魔師と比べたら才能はあった方らしい。でも姉ちゃんと比べたら出来損ないだ。武術、退魔の術式、式神召喚、占い。例えば姉ちゃんがその全てを1週間で習得したのなら、俺は全て習得するのに2ヶ月半くらいってところだ。


そんな俺は周りから常に出来の良い姉ちゃんと比べられてきた。だから俺は『さすが、皇 京香の弟』って言われるように親戚の目を気にしながら努力した。姉ちゃんから直々に教わったりした。姉ちゃんに隠れて陰で毎日習得しようとした。そのお陰で姉弟で将来の皇神社の『双竜の退魔師』と言われるまで言われた。


だけど、すぐに事件が起きた。


俺は化け物同士の戦いに、たまたま出くわしてしまった。灰色の獣と黒い羽根を生やした数体の化け物との戦い。俺はあの時、姉ちゃんとお祭りの縁日の帰りだった。


縁日の屋台で沢山、食べて花火も綺麗でそんな事を楽しく話しながら姉ちゃんと話していた。


だけどその戦いに出くわしてしまった為に俺は致命傷の深手を追ってしまって、命を落としかけた。でも俺は生きてる。なんで生きてるかって?


灰色の獣は俺が傷を負ったあとに一瞬にして数体の羽根を生やした化け物を前脚の爪で切り裂き、強靭な顎でかみ殺して俺に近づき。灰色の獣の命という魂を俺に捧げた。


それで俺は死ぬ事はなく、今を生きている。


これでお終いなら良かったんだ。


でも悲劇の始まりだった。


俺は今は人間の姿だが感情の高ぶりで灰色の化け物になっちゃう姿になったんだからな。


それだけじゃない。半分、いや半分以上が化け物の魂になった俺は退魔の術式、式神の召喚、占いが出来なくなってしまった。『将来の双竜の退魔師』の片割れが妖や魔物と言った不浄な存在になっちまった。


そこから手の平を返したように親戚の連中が俺を酷く罵倒し貶され、誹謗中傷と言うわ言うわでな。中には俺を殺そうとしたものもいる。コレが人間の醜さだ。


俺を人間扱いしなくなった。見るたびに俺を汚らわしいとでも言いたそうな目で見てくる。『皇神社が始まって以来の恥だ消えろ化け物』とか言われたな。あの時はさすがに涙を流して泣いたな。


でも姉ちゃんだけは違った。『私の事は何とでも言って構わないけど、私の唯一の家族であり可愛い弟を化け物扱いして泣かせるとは良い度胸ね。たとえ親戚でもあっても私は容赦しないわよ?』いつもニコニコしてる姉ちゃんが完璧に目が据わってていつも以上にドスの効いた声で親戚に言っていた。


親戚の人がおっかねぇ姉ちゃんの姿に立ち往生すると、すぐに笑顔になって優しい声で『これからも、お姉ちゃんがカズ君を守ってあげるからねぇ。今日の晩御飯はカズ君の好きなもの作ってあげるからね。ヨシヨシ。』ってやってくれた。


俺は姉ちゃんに抱き締められながら声を出して泣いた。きっと姉ちゃんも親戚の連中に色々と言われたのだろう。


そんな姉ちゃんが俺だけの為に怒った。


それだけが嬉しくて、悔しくて仕方がなかった。



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