前編 骨接ぎ屋、十蔵

「いらっしゃい!」


居酒屋に着き店主の爺さんの元気な出迎えで暖簾を潜りオイラと万屋さんは適当な席に座り、店主からお通しの品を貰う。


「へぇ~、お通しが山芋かい?」


「まぁ、一口食べて見てくださいな。」


万屋さんは橋で一口、山芋のお通しを食べてみると初めて食べた様な顔をしながら言う。


「これは美味いな!ワサビが効いてるな!」


「何でも山芋のワサビ漬けらしいですよ。ここにお品書きがあるんで。」


「おおっ!じゃあ酒に肴に頼もうか!!」


万屋さんは次から次へと酒に食べ物を頼み万屋さんは一品、一品が美味く満足の様子。


因みにオイラは酒はそこまで好きじゃないから食い物ばっかり食ってる。刺身がなんとも美味いし、鯨の竜田揚げもまた絶品。


万屋さんは行儀悪く酒をトックリのまんま飲みだしても顔色は変わらず゙美味い、美味い゙と満足な様子。


するとガラッと店の扉を開ける音が聞こえてきたので見てみると柄の悪そうな男が数人ともう1人は何か雰囲気が違う。


そう。身なりが明らかにお侍さんなんだよ。万屋さんとは、また違う男前なんだよな、コレが。女みたいな顔の万屋さんとは違い武骨で正に漢って感じの男前のお侍さん。


「やあ、店主。だいぶ繁盛しているじゃないか。」


「へっ!全ては白牙様のお陰でございます。」


「繁盛している所、悪いが4人で座敷は空いてるかい?」


「ただいま案内致します。」


オイラと万屋さんはその会話を聞き漏らさず白牙組の組長だと察しが着いた。なるほど、如何にも悪人みたいな顔をしている。


「そこのアンタ。」


「オイラかい?」


すると白牙組の横に居たお侍さんがオイラに話し掛けてくる。そして、すぐにオイラは察した。


コイツ……血生臭い……


するとお侍さんは何かを感じ取ったのか刀の柄に掴み殺気を込めて刀を抜こうとする。


オイラも右手で仕込み杖を逆手に持ち刀を抜こうと刀身を剥き出す。


店の中はオイラとお侍さんの殺気でブツカリ合いで奇妙な静けさだけが漂っている。


「た……大将。」


「先生、ここは店の中ですよ。ここではちょっと……」


「お、お客さん!、こ、こ困りますよ!!」


順に万屋さん、白牙組の組長、店主の爺さんがオイラとお侍さんを止めて、お侍さんは刀を鞘に納めると同時にオイラも仕込み杖の鞘に刀身を納める。


「アンタ。なかなか速い居合いだな……」


「いえいえ、たまたまですよ。お侍さん。」


「何故、普通の刀では無く仕込み杖を?」


「恥ずかしい話。護身用で……」


「名はなんと申す。」


「まず名乗るには自分から名乗るのが筋ではなくて?」


「なかなか言うな。俺は鷹野 半兵衛(たかの はんべえ)。白牙組の用心棒だ。」


「骨接ぎ屋をやっています。十蔵と申します。」


「そうかい。初めてだよ拙者の僅かな殺気に気が付くなんてな。」


「いえいえ。本当にたまたまですよ。半兵衛さん。」


「また……アンタとは近い内に死合うと拙者の野生の感が働いてる。」


「そうですか……」


すると半兵衛は白牙組の組長と他の幹部と一緒に座敷の部屋へと行ってしまう。店の中はと言うと……シラケた雰囲気になってしまった……


「すいません。万屋さん。ここを出て他の店で飲み直しましょ。」


「あっ……あぁ。ワッシは全然構わないぜ。」


「では店主さん。お代と迷惑料はコレで足りますかな?」


「へ、へぇ!充分すぎます!」


オイラはお代を払って万屋さんと一緒に外に出てると飲み直す店を探しながら歩き出す。


「お騒がせしてすいませんね万屋さん。」


「全然大丈夫だかよ……何なんだ?あの侍はよ?大将に刀を抜かせるなんて……」


「いえ、アレは本当にオイラを斬ろうとしてましたよ。オイラと同じ……人を殺めてきた奴の目ですよ。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る