前編 骨接ぎ屋、十蔵

「よお、大将。取り敢えず嬢ちゃんは横に寝かせておいたぜ。」


「それは有り難うさん。」


オイラは杖をつきながら与吉さんの平屋に着くと玄関口で万屋さんが茶をすすっりながら団子を摘まんでいた。


「ほら、大将も与吉さんからのお礼だとさ。」


「そうですか。では頂きましょう。」


オイラは腰を降ろして茶を頂くと与吉さんは少し覚束ない足取りでオイラと万屋さんの元に来る。


「さっきは藤を助けて頂き有り難うございます。なんてお礼をすれば……」


「いえいえ。こんな美味しいお茶とお団子をご馳走してもらえるだけで大丈夫です。」


「そうだな。この団子は美味ぇし。久しぶりに仕事が貰えたから満足、満足!」


「本当に……本当に有り難うございます……」


与吉さんはよほど一人娘のお藤ちゃんを大事にしているか、よく分かる。それにしても……白牙組の狙いは……


「お父……?」


「藤!」


どうやら、お藤ちゃんは気が付いた模様だしオイラと万屋さんは立ち去る事にする。


「嬢ちゃん、大した事は無さそうだし良かったな大将。」


「そうですね。万屋さん。」


「なんだい?」


「ちょっと早いですが風呂に入ったら飲みに行きますか。」


「おっ!良いねぇ!!」


時間は昼を過ぎた頃。昼飯を食って風呂に入ってからだいたい、夕方辺りになりますかな?


取り敢えずオイラの平屋に戻って薪を焚いて風呂を沸かす間に朝飯の残りを昼飯にしてからオイラが1番風呂に入る。


風呂から出て新しい服に着替えて万屋さんが出るまでの間に煙管で一服しながら仕込み杖の刀を手入れする。


「手入れをしないと、すぐに切れ味が悪くなってしまいますからねぇ……ふぅ~。」


「おーい、大将。上がったぜ~…ふぃ~サッパリしたぜ。」


「じゃあ、行きましょうか。」


時間は日が傾いてきて少しばかりお日さまが茜色に染まってきた夕刻。


「なぁ、十蔵。」


「なんだい?三厳。」


オイラと三厳は田んぼと畑の間にある一本道を歩きながら少しばかり雑談。


「ワッシ達はもう三十路なんだな。」


「そうだな。十五で元服して遅くても十八で結婚して下手すれば年頃の娘が居たって可笑しくない年齢だな。」


「十蔵は……誰か嫁とか貰わないのか?」


オイラは足を止めて後ろに居る三厳に後ろから振り返り、少し憂いた顔をしているのか自分でも分からないが、これだけは言える。


「オイラは無罪放免になったが所詮は咎人だ。上役を斬った瞬間にもう真っ当な人生は歩めないって覚悟したさ。」


「……」


「だからオイラは、あんな純粋無垢な何一つ汚れを知らない娘を抱く事は出来ないのさ……こんな血生臭いオイラは……人を殺める事しか出来ない手で、抱いてやる事は出来ないのさ……」


「そうか……だけどもし!」


「さぁ、行きましょう。万屋さん。万屋さんが好きそうな酒屋を見付けましたので。」


「あっ……あぁ……」


三厳が言おうとしていたのは、何となく分かる。だが……それは表の稼業の゙骨接ぎ屋の十蔵゙としてだ。


もし、裏の稼業の゙人斬りの十蔵゙を見てしまったら……恐ろしくて逃げちまうよな。だから……オイラは一生独り身で構わない。それが咎人の罰。もしオイラが生きていることが罪なら、目を背けず生きて、生き抜いて、どんな死に様でも受け入れよう。


「どうやら町が見えてきましたね。」


「おぉ!そんで大将の言う俺が好みの酒屋ってのは?!」


万屋さんは酒好きで、そんで酒豪だから足りますかな?まぁ…そこまでザルじゃないことを願いたいですな。


歩くと酒屋に芸者など一種の歓楽街みたいに夜にも関わらず人が賑わっている。それは白牙組が仕切り始めてからの事だ。


以前は夜更けになれば人も誰も歩かない静けさだったのにな……



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