前編 骨接ぎ屋、十蔵


「とっても美味しいよ。お藤ちゃん。」


「えへへ。あのね!この前、骨接ぎ屋さんに買ってもらった簪(かんざし)ね。大事に着けてるからね!」


「そうかい。気に入ってくれて良かったよ。オイラはそう言う装飾に疎くてな。」


「ううん!骨接ぎ屋さんが選んでくれたんだから絶対に大事にするから!」


「それは良かった。」


お藤ちゃんは年頃の娘に似合う笑顔を溢して、あどけない可愛さで微笑む。


「絶対に……骨接ぎ屋さんと夫婦になるんだから……」


「なんか言ったかい?」


「なっ?!なな何にも言ってないよ?!うん!!」


お藤ちゃんは何か焦った様子でオイラを誤魔化す。やっぱり年頃だからオイラにも秘密にしたいことがあるのかな?


ちょっと前まではオイラの後ろを追い掛けてきてたのにな。やっぱり成長って嬉しいようで寂しいな。


「あっ!骨接ぎ屋さん。お茶の御代わりは?」


「いえいえ。もう大丈夫だよ。ご馳走さま。美味しかったよ。さて、与吉さんの鍼と御灸を外しましょうか。」


オイラは与吉さんにやった鍼と御灸を1つ1つ丁寧に外して鍼を道具入れの布にしまう。


「どうですか?」


「はい、まだちょっと痛みますが、さっきよりは、だいぶと痛みも楽になりました。」


「それは良かったです。最後にちょっと手技をやりましょう。」


オイラは最後に手技と言って硬くなった腰や背中を手掌や指などで押して出来るだけ解していく。


「大丈夫です?」


「はぁ……骨接ぎ屋さんは腕が良いですね。痛みもだいぶ引いてきました。」


「そうですか。あと2、3日は安静にしていて下さいね。そこでまた無理すると余計に治りが悪くなりますから。」


「はい。所で骨接ぎ屋さん。」


「何でしょうか?」


与吉さんは話を切り替える様な口調でオイラに何か話し掛けようとするが、与吉さんは少し言い出し辛そうだ。


「お藤ちゃん。ちょっとオイラとお父ちゃんて2人で話したいから席を外してくれないかい?」


「あっ……はい。分かりました。」


オイラはお藤ちゃんにそう言うと、そそくさと外に出ていき家の中はオイラと与吉さんだけになった。


「話と言うのは?」


「はい。実は白牙(しろが)組の連中がですね……」


「あの白牙組がどうしたのですか?」


白牙組。ここ2ヵ月ほど前にここから歩いた先の町を仕切る侠客。町も特に何もなく平和で活気があった町だが白牙組が仕切り始めると賭場が栄え町が豊かになってきた。


実際に町人や商いをする人達を始めお侍さん等が身なりが以前よりも良くなってるって言うのが現状。


「白牙組の連中がこの土地を全部渡せと言われまして……もちろん、それなりの礼はすると言われたのですが……代々受け継がれた田んぼと畑を手放すのは忍びなくて……」


「なるほど……まぁ、嫌なら断っても良いと思うのですが……」


「はい!もちろんの事、丁重にお断りしましたのですが……」


「ですが、どうしたのですか?」


「何故か翌日からオラの作った野菜や麦に蕎麦粉をヒイキしてもらってる商人さんから『受け取れない』と……詳しくは言ってくださらなくて……」


「……」


「それから数日は野菜が勝手に荒らされたり……それに丁重にお断りしているのに何度も何度も来まして……そして来るたび、来るたびに乱暴な口調や態度にホトホト困っておりまして……」


「そうですか……それは大変でございますね。奉行所の方には?」


「行ったのですが……門前払いをくらいまして……もう泣き寝入りするしかないのでしょうか?」


「……」


何故だ……何かがオカシイ。どうして町から離れた場所に目を付けて地上げ紛いな事をする……それに圭史郎様の居る奉行所が何故に与吉さんを門前払い……


まず圭史郎様は門前払いをするような人じゃない……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る