第37話 DAY30

 朝目覚めると、知らない天井だった。あぁそうか、お泊まり会してるんだった。


「ふわあぁ。みんなはぁ。」


隣を見るとまだ寝ている。スマホを開いて時間を確認する。3時だった。まだ外が暗いわけだ。窓を開けようと思ったが、月明かりでみんなが起きてしまいそうなので、それは諦める。


 私は昨日の晩のことを思い出していた。ウイスキーボンボンと日本酒ボンボンを食べて…それからの記憶が無い。変なこと言ってないか不安になってきた。もしも、ひい君に関すること話してたら、月末どんな顔して会ったらいいか分かんないよ。


 机の上に残っているウイスキーボンボンを1つつまむ。甘い。でも昨日知った味。知ってしまったから離れられない味。そして、一生忘れられない味。私は麻痺しかけの脳で言葉を紡いだ。


「好きだよ、……」


これはきっと誰にも届かない私の願い。私は負けヒロインだ。それでも、見届ける権利ぐらいはあるよね。私はパタンと倒れて、眠りについた。


〇〇〇〇〇


お腹に当たったなにかの感触で目が覚める。


「頭痛ぁ。」


きっと、昨日食べたウイスキーボンボンのせいか。次からは気を付けないとな。周りを見回すとまだ真っ暗だった。お腹の上にはきいが乗っている。私は彼女をどかしてキッチンの方へ。水を飲み、一息つく。昨日の夜のことを思い出していた。


『奏はぁ、仲良くやってるけどぉ。たまにご飯一緒に食べたり、遊んだり、看病して貰ったり。』


「はぁー、めちゃくちゃ恥ずかしい。私とあいつがめっちゃ仲良いみたいやんか。」


私は奏とはそこそこ仲良くやってる方だと思う。それでも、そこまでデレる必要はないのに。なんでだろうか。奏のこと考えてると、自然と頬が緩んでくる。やっぱりこういうときは寝て忘れよう。よし、寝よう。


 2階の自分の部屋に上がる。3人が寝ている間にスペースを見つけ、そこへ飛び込んで、眠りについた。


〇〇〇〇〇


 カラスの鳴き声で目が覚める。スマホを開けば、6時30分だった。みんなはまだ寝ているから、起こさないようにしないと。


 まず、部屋を出て洗面所に向かう。途中のリビングで楓のお母さんを見かけた。


「おはようございます。お邪魔しています。」

「おはよう、桜ちゃん。昨日はすぐ寝ちゃったみたいね。」

「まあ、そうですね。途中から記憶がないですが。」

「あの2つを食べると流石にね。」

「もしかして、食べたらダメでしたか?」

「いいのよ。あれは、楓が食べさせたいって買ったやつだから。」


楓のお母さんは柔らかな笑顔を崩さなかった。おそらく、本当のことなんだろう。私は1つ礼をして、洗面所に向かった。


 顔を洗って昨日のことを考える。さっき、『記憶がない』と言ったのはもちろん嘘だ。自分が何を言ったのか、全部覚えてる。考えるだけでも恥ずかしくなってきた。鏡に写る、真っ赤な顔をした自分を見る。私はいったいどうしてしまったのだろうか。こんなはずじゃなかったのに。目を閉じれば.、頭の中には、幼かった日の思い出が蘇る。


『アンタのせいよ―』


今でも思い出す、唯一の私の思い出。多分、この呪縛からは逃れられないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る