第38話 DAY31

 夏休みも残すところあと1週間になってきた。やることが無くなった俺はついに、あることを決行した。


『一人旅に行ってくる。日帰りだから心配すんな。』


そう、メモを残して。


 乗る電車は、もちろん始発ではなく、2本目の電車。行き先は磯ノ浦。淀屋橋で乗り換えて、御堂筋線に乗り、なんばでまた乗り換え。南海本線で和歌山市まで行って、南海加太線で磯ノ浦下車。徒歩すぐのところにある。サーフィンに来る人が多いところだ。しかし、今日の天気はあいにくの雨。人も多少は少ないだろう。


 まずは、入ってきた準急淀屋橋行きに乗り込む。始発から2本目と言えど、座席は埋まっていた。サラリーマンが多い印象だ。お疲れ様です。


 淀屋橋で乗り換えて、御堂筋線に乗る。こちらも、ある程度人は乗っている。予想通りだが。


 なんばで乗り換えて、南海線の乗り場までは徒歩。象徴にもなっているであろう、長いエスカレーターに乗って、改札へ。5番ホームに停まっている電車に乗り、そこからは和歌山までの長い旅。携帯でゲームをしながら、たまに外を眺めていると、次第に街から山になっていく。尾崎のあたりは、海岸線がとても美しく、思わず写真を撮ってしまった。


 山を越えて、都会に出てきたら和歌山市。ここでまた乗り換えて折り返す。めでたいピンク色の電車に揺られ、海が見えてきた。こうなればもうすぐ磯ノ浦。道の向こうに浜が見えて、目的地到着だ。


 電車から降りると、雨と海の匂いが混じって鼻腔をくすぐってくる。やっぱり俺は海が好きなんだなって思った。


 浜の方へ行くと、大きな水たまりができている。その上を雨がはねているから、潮騒はそれにかき消されて、消えている。今日来ているサーファーはまばら。波もそこまで良くなさそうなのも理由の1つだろう。海岸線を1人で歩いて奥まで行ってみる。ここら辺になってくると、釣りをしている人がいるようになってきた。釣れている気配はないが。再び線路際へ歩く。正面から銀色の電車が来たのが見えたので、スマホを構えて、パシャリ。そして、山の向こうへ消えていくのをパシャリ。


 山手の方には神社があるのを事前に調べていたのでそこに行ってみる。小さなところで、33段の階段を登って海の方を見ると、家の屋根に遮られて見えなかった。残念だ。


 昼食は浜の近くのカフェで、管理棟の2階にあって、中からは水平線が綺麗に見える。俺は窓際に座った。


 注文したホットドッグのセットを持ってきてもらって、コーヒーを飲みながら食べる。美味し。たまに、サーファーの家族が来て、大量に注文して持って帰るのを見る。ここは、そういう店なんだろう。水着のまま入れるのがその理由か。


 雨が止んで、駅に向かう。さっきの水たまりに太陽が反射して少し眩しい。それでも、温かみを感じられた。


 駅のホームで1人、ベンチに座って待つ。先に向かいのホームに電車が来たので、それを撮ってみる。時間的にも、俺が乗る電車だろう。帰りも撮っておこう。


 20分ほど待って、予想通りさっきの電車が来た。めでたい青い電車。これで和歌山市まで行く。心地よい揺れに思わず目を閉じそうになる。少しだけ寝よう。


 和歌山市からは特急に乗ればすぐに難波についた。都会の風景を見ると、思わず「おかえり」と言いたくなるのはしょうがないことだろう。そこから、地下鉄、そして京阪に乗り換えて光善寺に帰る。電車がこれほどかと傾いて、いよいよ帰ってきたんだなと物思いにふける。


 少し歩いて我が家へ。


「ただいま!」

「おかえり!どこ行くか書いて行ってよ!」


ドアを開けたときの風は甘かった。

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