第35話 DAY29①

 なんだろう、やっと、やっとだ。やっと…


「お泊まり会!」

『イェーイ!』


そう言って私たちは乾杯する。高校生になって初めてのお泊まり会。桜ん家はQがいるし、音羽ん家ときいん家は寝るスペースが無いみたいだから私ん家でやることになった。アパート住まいの音羽はまだしも、きいん家は一軒屋なのに、寝るスペースが無いってどういうことだ?


「いやー、なんか青春っぽいね。こういうの。」

「楓ん家は大きいから、この人数で泊まるならベストだわ。」


きいと音羽がジュースを飲んで呟く。桜は?何を探してるのかな?


「ない。」

「何が?」

「エロ本がない!」

「ここは男子高校生の部屋じゃないぞ!」

「あっ、忘れてた。」


こいつ、自分ん家でもこんな感じなのか。それなら、Qは少し可哀想だな。


「それにしてもごめんね。水泳部が午前中だったから、午後からになっちゃって。」

「いいよ。その分楽しんだらいいだけでしょ。」


私たちはきいを見る。「何?何?」と私たちを見回すきいに抱きつく。


「いいこと言うぜ、我が親友よ!」

「お、おう。」


少し恥ずかしそうにするきい。可愛いわぁ。


 そんなこともあって、もう晩ご飯の時間。今日はロシアンたこ焼きを作る。なんか男子の遊びみたいで嫌だけど、きいがどうしてもやりたいって言うからな。


 出汁は昼の間にママが取ってくれたみたいだから準備できている。


「混ぜるの私やるね。」


音羽は料理上手。材料をボウルに入れ、小麦粉がダマにならないように混ぜていく。混ぜ終わったのを見るとめちゃくちゃなめらかになっている。流石だ。


「じゃあ焼くのは私!焼きあがったら呼ぶからみんな部屋でゆっくりしててね!」


第1弾の担当はきいになった。さて、どんな化け物が産まれてくるやら。私たちは2階の私の部屋に上がって待つ。途中「ギャー」とか「これなら…」とか聞こえてきたので、心配で仕方なかった。


 ここで紹介。本日の具材は、たこ、チーズ、ウインナー、カルパス、そしてフルーツ味の飴。飴以外は味が予想できるが、飴だけには当たりたくない。選んだのは桜だ。意外すぎる。


 いい匂いがしてきた。


「出来たよー!」


きいに呼ばれて、リビングに降りる。うちのたこ焼き器は4列だから、1列ずつジャンケンで決める形だ。


『ジャーンケーン!』


結果、リビング側から音羽、桜、私、きいの順番。きいは焼くのが上手いのか、具材がはみ出していないからどこに何があるのか分からない。ちなみに今回のプレートでハズレは1個らしい。


『いただきまーす!』


私たちは1つずつ冷ましながら食べていく。私は最初はカルパスか。これは単純に美味しい。カルパスの少し固めの食感が、たこ焼きの生地に絶妙にマッチしていて、なかなかいける。みんなも普通に美味しいやつが当たったみたいだ。


 事件はラスト1個でおきた。


「オウェッ!」


桜が口に手を当てて泣きそうだ。それを見ているきいはなんか嬉しそう。


「きい、何入れたの?」

「もちろん、ピーチ味の飴!」


私たちはその場にうずくまる桜を写真に収める。それをKYUKA組に送った。しばらく見ていたら既読が4になって、男2人も見たことが分かる。


『お前ら、何してんだ?』


まずはQが反応。


『ロシアンたこ焼き』


きいが返信。なるほどと感心しているタイミングを空けて、


『何入れたんだ?』


奏が反応した。私たちは面白くなって、


「逆に何入れたと思う?」


と訊いてみる。少し間があって、2人から帰ってきたのは同じだった。


『キウイ』


近いけど違うんだよなぁ。いや、近いのか?


「正解はピーチ味の飴!」


それだけ送る。既読がついてすぐ、桜の通知音が鳴った。桜は、今にも死にそうな手でスマホを開いて、メッセージを見る。


『ご愁傷さまです』


2人とも同じ内容だった。


 そのあとも第2弾、第3弾と音羽と私が焼いたが、ハズレを引いたのは桜だけ。味はりんご味の飴とレモン味の飴。1番いい反応をしたのはレモン味のとき。


「何これ!甘みと酸味と小麦粉の味が混ざっていて…これ、この世のものなの!?オウェェェェ!」


桜はトイレに駆けて行った。私たちはそれを見送って片付けを始める。作ることに関与していない桜がやる予定だったが。あそこまで体を張ったんだ。これくらいはしておいてあげよう。


「もう、ピーチ味とりんご味とレモン味の飴食べれない。」


桜は帰ってきて、そう一言。


「楽しかったね!」

「そだねー。」

「またやれたらいいね!」

「痛い目見たの私だけだけどね。」


嬉しそうな表情をするきいの横で桜の暗い空気が漂っている。なんとも素晴らしいコントラストだ。


「じゃあ次は何する?」


こうして夜は更けていく。

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