第32話
「これは?」
「ん?」
わたくしの目の前でほんの少し。ほんの少しだけ陛下が首を傾げた気がしました。
わたくしと陛下を気にして周りに陣取る方がいらっしゃることも忘れてもう一度この香りを確かめたくなってしまったわたくしは陛下のお側に体を寄せました。
ざわっと周りで空気が動くほどのことだとはその時思っておりませんでしたが、陛下は身体を引かずにそのままでいてくださったので夢中になってしまったわたくしは更に陛下の首筋の近くに鼻をよせてしまいました。
なんてことを、だの、あの皇女振り払われるぞ、だの、同情するようなあざ笑うような声も聞こえましたがそんなことよりこっちですわ。
固まったようにじっとしている陛下をいいことにわたくしは確認して確信しました。
ああやっぱり。陛下からだわ。
「カモミールの花弁と、ラベンダーの花、それから・・・・ロサ・キネンシス?」
「・・・何故?」
不思議そうに問われた声に思わず淑女の仮面が外れてしまったのも気が付かないまま笑顔を浮かべてしまったわたくしはあとからお兄様たちにかるく注意をされてしまいましたが・・・。
その時のわたくしは全く気がついておりませんでした。
だって、当たったのか答え合わせがしたくてたまらなかったのですもの。
「カモミールとラベンダーはわたくしも湯浴みの時に使いましたの。でも少しだけ香るのはロサ・キネンシスでらっしゃいますか?」
「姫は・・・この花が好きなのか?」
「ええ。原種ですし緑のバラだなんて素敵ですもの。ただこれは香りがそう強いものではないのですけれども陛下から・・・。」
そういってまた香りを確かめようと首筋に顔を寄せようとして。はた。と気がつく。
私何をしようとしておりました?ここは夜会会場ではありませんの?人に溢れた・・・溢れた?
あああああああーーーーーーー!やってしまいましたーーーーー!!!!
わたくし自ら陛下の香りをかごうとしてしまったのではありませんの?
いくら気になる香りだったからと言って!この香りの正体が原種のバラだし珍しいものだからと言ってなかなか出会えないけれどもとてもそこからの亜種のバラに興味があるからと言って。
自ら身体を寄せるだなんて・・・・ああああーーーーー取り返し!取り返しが!ああああ・・・
真っ青になりながら身体を離そうとした瞬間。
ふわっとラベンダーやカモミールの香りに混ざったロサ・キネンシスの香りがした。
わたしの背中に手を伸ばした陛下がわたくしを抱きしめたのだ。
は?と思っている瞬間に真っ青だったわたくしの顔が羞恥に染まる。
真っ赤だろうと思うのだ。耳まで熱い。頬も熱い。だから離して欲しい。
アワアワと思っている間に、すっと後ろに流した髪を一房掬われた。
それをたどるように、陛下の指が滑る。
背中にはらはらと滑り落ちていく髪が、その感触が、わたくしの意識を奪う。
そんなわたくしに気がついているのか気がついていないのか髪が滑り落ちた後の手をまた・・・。
ゆっくりとした仕草で優しく抱きしめ直されてしまった。
わたくしは陛下の想像以上に緊張がピークですのに!!なれていませんのに!陛下ほど異性に慣れておりませんのに!!!
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