第31話
わたくしの父が断ったということは理由があるはずだ。何もなく断るはずがない。父は、そんな・・・
「わかっている。怒らないでくれ姫・・・。」
そういって軽くわたくしの身体を引き寄せて。
一瞬わたくしを陛下は抱きしめた。
周りの人たちが息を呑んだのが解ったけれどそれどころじゃない。
一瞬抱きしめた後に柔らかく手をほどき、緩やかに優雅にターンを促される。
ああ、もうすぐ曲が終わる。
間をとっているのはわたくしだけではない。きっと陛下もなのだ。
「わかっている。もう手遅れだったのだ。手の施しようがなかったのだ。そして兄がそれを望んでいないことは知っていたし解っていたのだがどうしても頼まざるを得なかった。
全てが私のわがままだったのだ。解っていたのにどうしてもエルロッドウェイの皇には失礼をしてしまった。
姫のお父上は正しいのだ。私が愚かだったのだ。」
違う。あのときうずくまったあの小さな細い背中は・・・今の陛下とは違うあんなに細い背中は・・・
「父を・・・お許しくださいませ。エルロッドウェイをお許しくださいませ。」
悲しくなってしまう。まだお小さい時の陛下は今よりずっとお身体も弱く、苦しかっただろうに。
最後の望みの綱だったのではないだろうか。断られた時の少年の気持ちは幾ばくかと。
いたたまれず涙がこみ上げる。
我がエルロッドウェイは医療国。このように最後の望みを持って訪れる方も多い。
全ての方に満足出来る治療法も薬もお渡しすることはできない。解っているけれどいつも辛いのだ。
「ああ、姫そのような謝罪は望んでいない。」
そういって曲の終わりに近づいていたため陛下はステップをゆっくりと踏んでいく。
それに合わせてわたくしも身体の動きを緩やかにしていく。
曲が終わった時。手をほどこうとした瞬間。陛下はそれをやめてわたくしの手を取った。
「今は違う。あの時のわたしとは違う。
そんなわたしを姫は治してくれるのだろう?私を助けようとしてくれるのだろう?」
そういって真っ直ぐにわたくしを見つめて来るダスティーブルーの瞳は少しだけ不安に揺れている。
「わたくしの命に変えてもお助けしますわ。必ず何があっても陛下をお助けします。」
それが神託というものなのかわからないけれども。
わたくしがここにいるということはそういうことなんだと、思い直す。
わたくしがここにいる理由を問われれば、お助けするためだと答えたい。
その後に神託だからと断れない理由にしたくはない。
何故そう思うのかはわからず。
軽く首を傾げてしまった。
そのわたしを見て、陛下はくすりと笑う。
何故かしら・・・わたくしまだ陛下と知り合ってそう時間は立っていないはずなのに?
首を傾げたままのわたくしを見つめたまま。
陛下は声を上げる。消して大きな張り上げた声ではないのに。
人に何かを命令する、人をかしずかせるのが当たり前の権威と声。
「さあ、ダンスの時間だ。」
その陛下の一言でフロアに人が溢れ出す。
綺羅びやかなドレスの波と紳士たちのさざめきとを聞き、目に入れながら。
私はまだ釈然としない気持ちでいました。
わたくしは何故、こんなわからない気持ちになっているのでしょう?
ふっと。
その時にふっと何かが香った気がしました。
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