第30話
うーんと考え込んで、端的に答えました。
「羽根が降りましたわ。」
「本当に降ったのか?」
また楽しそうに笑う。そして少し手を引いてわたくしの身体を軽く抱き寄せる。
ああ、周りの方に効かせたくない話ですものねぇ。
などとわたくしはまったく構えることなく笑顔を浮かべてしまった。
思わず気を抜いてしまったのはしかたないとおもうのだけれど・・・。
わたくしをじっと見つめる陛下が軽く目を見張ったのを不思議に思いながら答えました。
「はい。羽根が降りました。まあもうその羽根は私が薬の材料にするために分解を・・・」
「分解?」
そういった後に・・・・くはは!と笑い出した。
「分解・・・分解・・・。」
そんなに変なことをした覚えはありません。しかたないではないですか!それさえ貴重な資源なのですから。
というか神託のときに降る羽根なんて薬の材料にしかならない素材ではないですか!!!
「あの羽根一枚で、解毒薬も免疫薬も作れるのですよ?大事な素材です!」
「そ、素材・・・。」
そう言ってまた笑う陛下を見ながらちょっとだけ不機嫌になってしまいそうです。
大体選ばれてなきゃっていうもしもはわたくしには存在しないのですから。こっちは生まれた瞬間誰かの病気を治すことを義務付けられているわけですので。
ちょっとぶーたれてしまいそうです。
だいたい私だって普通に生きていきたいと思っておりましたのに。
ひとしきり笑った後に陛下は真顔になってぎゅっとわたくしの手を握り込めてきました。
「ああ、姫・・・笑って申し訳ない。ただ許してくれ。私も戸惑っているのだ。」
「え?」
この麗しい人がなににとまどっているというのだろう?
「私の身体は薬が効かない。治す方法はあなたの手でしか治らない。しかし私はあなたに会うまでは治らなくてもいいと持っていた。」
これまたわたくしが来たかいがないようなことを言われてしまいました。
じっと見上げると困ったような優しい目と声に出会う。
そしてその時に告げられた言葉はわたくしの想像とは違う言葉だったのです。
「治してほしいのは私ではなかった。兄の・・・兄の病を治してほしかったのだ。」
「お兄様でらっしゃいますか?」
亡くなられたというお兄様のことをおっしゃっているのだろうか。
「私はまだ幼き頃。姫の国に行ったことがある。兄の病を治してほしくていったのだ。」
あのときだろうか?あの時少年の陛下とお会いしたときのこと?
わたくしが覚えているのはその時の記憶ともちょっと違う。
その時から五年後に、一年に一度。5月1日に陛下のことを写真のように画像が浮かんでおぼえていたのだ。覚えていたというよりも忘れさせてもらえないというか・・・。
あの時うずくまっていた陛下はたしかに苦しそうだったけどお一人だった。お兄様と一緒にいらしたという話は聞いたことがない。
でも現にお兄様がいらっしゃらず陛下が国を治めているということは・・・。
「姫のお父上には断られたのだ。」
頭が理解するよりも先にそれを聞いた途端に陛下の手をぎゅっと力いっぱい握ってしまった。
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