第8話

さて。




私の周りの六人の侍女の方々。よく見れば皆様見目麗しい・・・。


その方たちに服を剥ぎ取られ湯船につけられて、髪だの腕だの体中を磨き上げられる


わたくしの身にもなっていただきたい・・・。




魂が抜けそうになりながら、ぼーっとしているととてもいい香りがしてくる。


これは・・・?






「ラベンダーとカモミール、それからオレンジ・・・というよりはもっと違う香りだわ。」


「よくおわかりですね、さすがナディアレーヌ様でらっしゃいますわ。」


一人の一番年上だろう侍女さんが微笑んでくれます。


あ、あたったみたい。


でも、我が国にはない香りだわ・・・柑橘系のこの香り・・・。


「少し珍しい、新しい柑橘類が手に入りましたの。食べると少しほろ苦いのですが


香りがとても良いのです。」


その柑橘類を手にとってみたい。そしてその成分をなんとか抽出してオイルに落とし込めないかしら?


うーむ・・・と考え込んでいると侍女さんたちが笑い出しました。




はっ!!わたくし裸でしたわ。




わたくしがボーッと考えている間にお湯の中にラベンダーとカモミールが散らされる。


ああ、この国ではダイレクトに花をいれるのね。


確かにお湯の暖かさで香りが立つものよね。




いつも我が国ではカモミールは花びらを細かくちらしたりなんかしない。


小国なので資源は有限。ちらした花びらがお湯から上がったあとにまとわり付く。


そしてそれをまた洗い流す手間とお湯がいる。


つまりはなんとなく節約・・・とまでは行かなくてもやっぱり締めるところは締めるものっていうのは


染み付いている小国の寂しさよ・・・。


花弁ごと浮かんでいればお湯から上がるときにくっつくことなく・・・


でもまあ、綺麗にほぐされている方が確かに香りは立つ。




うーん、大国って少しのことでもやっぱり贅沢なものですよね。


我が国だと布に包んでお湯に入れるもの。だったらその後に薬草畑に撒くこともできる。


一石二鳥なんだけれども。




あ、この国でもわたくしそういえば薬草園をいただけるのでした!!


ということはこの花も・・・。






ふっと顔を上げるとニコニコと六人の侍女さんたちがわらっています。




わたくし、またなにかやってしまったのかしら?






「皇女様は表情が豊かでらっしゃいますわね。本当に。一安心ですわ。」


一安心ってどういったことで一安心ですの?


キョトンとした顔で見上げてしまったわたくしの髪を梳きながらはじめに話しかけてくれた


侍女さんが再びニッコリと笑う。


良い香りですー。こちらもラベンダーオイルがふんだんに遣われているようですね。


それにしても・・・。




わあ・・・美人さんの微笑みって何たる破壊力。


「陛下はあまり器用な方ではございませんしなかなかに不器用で無愛想な方ですが、


皇女様がいらっしゃるのをきっと楽しみにしていらっしゃいましたよ。」






ん?




変なこと言われた気がする・・・。




「た、楽しみにとは?」




すると他の侍女の方々も口々に言われます。




「あの陛下が。あの!あの陛下が!!皇女様のお支度にわたくしたちを遣わせたことですわ。」


「そうですわ。私達が皇女様のお支度を申しつかったこと。それだけでも大切にお仕えせよとの


ことですわ。」


「そうです。何しろ私達六人しか侍女は陛下に近づけるものがおりませんの。」




は?物騒なにそれ?近づけるものがいない?とは?




「身辺調査が確かなこと。二心がないこと。忠誠を誓っていること。そしていちばん大事な事。」




そんな重大なこと?自分がもはや裸でいることも忘れて振り返ってしまう。


そんなわたくしの失態にも皆さま動じることなく、またわたくしのお世話をしながら(全く


手を抜かずに磨き上げられながらこんな話をしているという事実に頭を抱えたくなる)にっこりと


ほほえんでいらっしゃる。






確かにこの方々にわたくしに対する敵意はかんじられません。


皆さま妙齢のご令嬢たちな気がしますのに陛下に対してのあこがれなどはないのでしょうか?


わたくしはサラに指摘されたようになかなかに厄介な存在になりそうな(わたくしにはなる気は


ありませんけども)物件皇女だと思われますのに。


手を抜かずに支度をしてくださっている。


しかも好意的に。






はて?






「皇女様。身分を明かしても良いとの陛下のお言葉がありましたのでお伝えします。


私達は陛下の私的部隊でございます。」






ぶほっ・・・。


私的部隊・・・とは?


咽たわたくしの背中を優しく撫でながら、ゆっくりとわたくしが落ち着くまで待ってくださいます。


私的ということはああいったことやこういったことも?


どういったことなのかよくわかりませんがとりあえずピンク系の事も含まれるのでは?


もしかして皆さまがもうもはや寵妃候補ということでまちがいないのでは?


皆さま見目麗しいですし、出るところと締まるところが非常に顕著。


ええ、素晴らしい肢体をしていらっしゃる模様。




わたくしの視線を察してか、皆さまが生ぬるく笑われます。




「皇女様。陛下は好色ではございませんし、何なら当然ながら帝王学として学ばれてらっしゃいます。


それ故女性の扱いは確かに長けてらっしゃいますがそのような方ではございません。」




ああ、違うの?


わたくしのお兄様達を見ているとそれなりに楽しんでいても全く良いと思うのですが?


わたくしのお兄様方もそりゃあもうモテます。


美しく優秀で権力もある。そりゃあモテるに決まっているでしょう。


モテる方の振る舞いとしては至極真っ当に振る舞ってらっしゃるような気がします。




まあ、わたくしに甥や姪はいないはずです。そんな失敗はしない方々ですが。






居たとしてもまあ、驚きはしません。




わたくしに意味がわかっているかと言われれば・・・。


サラが虫けらを見る勢いでお兄様達を見ることがあるのでそういったことかなぁという


認識ぐらいです。


わたくしは全く男性に誘われることも触れられることもないもので(兄達とロイ、両親以外)


わたくしには関係ないことです。


兄達と違ってわたくしは地味で地味な地味すぎる皇女なので。






「私的部隊というのは身の回りの世話と、陛下を物理的にお守りする部隊。


ということですわ。」


「物理的?」


あれよあれよという間に湯船から引き上げられ、これまた香り高い新しいお湯をかけられる。


ああ、カモミールの花がー!!流されて行くー・・・私の畑にー!!!




ああああ・・・とあわあわしているわたくしを尻目に侍女の方々が隅々まで私を拭き上げます。


柔らかなシルクのローブを着せかけられたあと鏡の前に座らされました。






片腕ずつ取られて爪の手入れを受けながら、わたくしの真後ろに立って髪をかわかしている


侍女さんを鏡越しにじっと見つめてみました。




うーん、美しい。やっぱり美しいです。


なんの化粧品を使っているのでしょうか。


わたくしが開発した、カモミールの化粧水とオイルを使ってみていただけないかしら。


それで、その肌の違いを・・・。






「皇女様?」




はっ!!見過ぎました。




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