第21話 作戦開始 -2

「となれば急ごう。君たちの芝居小屋はほぼ出来てたんだろう? よ~し、ひっくり返すぞ」




まだついていけていないアルを前に、腰に両手を当てたレオはどんどんと話を進める。




「予算も多少は援助できるが、まずもって職人の説得ができればいいわけだな。でもそれには叔父の邪魔が入ってくると」




だからそのヴィラージオ家の指示を潰すか、もしくはあたかも潰されたかのように見せかけるかが良さそうだ。というレオに、こちらの理解は追いついていないので二人は首を傾げる。




「君たちは告発を求めていたわけだが、理解しているだろうがそもそも全然足りない。なぜか潰されました!と言っているのと同じだ。証拠が足りないんだな」




そんなことはわかっている、というようにアルの眉間にしわがよりはじめたところ、レオは彼に問うた。それでも、教員が理解している答えをわざと生徒に聞くような素振りに見えたのも誤認ではなかったように思える。




「場所だろう、施工。デザイン。そのあたりは君たちの内部にできる人間がいたんだろうが……交通はどうしていたんだ」




思いもしない言葉が出てきて、リアは少し目を丸くする。交通が何を指すのかもよくわからない。村から街へ出てくる、乗合の馬車しか思いつかない。




「娯楽が街に集中するのは、その場所の交通も関係するんだよ。例えばこの街は船がある。港が発達するのは世の常だから、首都もここな訳だ」




船で他国と貿易をするときは、港が必要になる。新しいものも入ってくれば、自国の輸出するものも集まる。自然、金も集中し、港が栄えるのはどの国も同じだった。それを受けて、アルは真剣な声色で返す。彼はすでにレオの言いたいことを理解し始めているようにリアには見えた。




「それはもちろん、その街の馬車とは話を通していた。劇場を開いた後の人の行き来、開く前の物資の輸送。交渉は必要だったが、適性な価格で落ち着いた認識だ」




その言葉を待っていたかのように、レオはまたにっこりと笑った。




「それが間違いだったんだな。いや、間違いとは言わないけれど、薄かった」


「え?」




ついに言葉を返したのはリアだった。薄い? 状況がわからない。


それでもそのリアに、子どもに算数を説明するように、レオはあっさりと言った。




「あのね、うちの劇場は交通利権とギチギチなんだよ。身内の恥だけど」




ぽかんと口を開けたのはリアだけだった。アルは状況を理解し始めたようで、鼻から息を吐いてソファに沈む。




「港からは指定。他の街からも乗り換え。とにかく一つの家の馬車が豪奢な送迎をしてる」




そこでは莫大な利益が発生している。君たちは知らないだろうが、街の交通は色々な名称にはなってはいるが、ほぼ一つの家が握っているんだよ。今は独占状態なんだ。




「他に劇場ができちゃ困るんだな。新文化の信仰なんて、本当はどうでもいいんだよ。目先の問題として、君たちの街に人が行くことが良くないんだ」




レオは芝居がかった様子で顎に手を当てた。その仕草が似合っていた。




「まだ小さな劇場なのにねぇ。でも守銭奴というのはそういうところを決して許さないから守銭奴なんだな」




盛り上がったらそこの馬車が人気になる可能性があるからね。今の街馬車は好敵手さえいない状況。そこだけでいてくれればまだいいが、資金力をつけて、今の馬車より安く通し始めたらどうする? 大きい厩を建てたら?




「だから、新しい語りを潰したいと言うよりは、ヴィラージオを通さないとあらゆる利権が取れないんだな〜!汚いね!」




自分の家の話をしているとは思えないほどに明るいこの男に、呆れるのももう飽きた。白い目をやめたリアは、静かに彼に聞いた。




「でも、それがどうにかなるということですね?」




ニコ、と笑ったレオは生徒に答えを告げるように指を立てた。




「金という分かりやすい理由があれば、それが逆に弱点になる。何か証拠が残っていれば、民衆も汚いねぇと理解するだろう」




そうしてアルを指差した。




「そうしたら君たちは強く、被害者ぶってくれ。若い弱者を虐げる年長の強者はみんな大好きだぞ」




そんな身も蓋もないことを言うな。とリアとアルは思ったが、言わなかった。レオは「そうとなれば、話を戻すよ」と言った。


ヴィラージオ家の命令をあたかも止められたかのように、見せかけよう。


そうしたらまだ間に合うだろう、工事が再開して劇場ができる。




止められたかのように?と二人が目を見合わせると、簡単なものだよ、とレオはまた目を猫のように弓なりにして笑った。

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