第20話 作戦開始 -1

ヴィラージオ家にやってきたアルは、目の前に毒入りの肉を置かれた犬という風貌だった。


目の前にニコニコしたレオ・ヴィラージオ本人が座っていて、この男の話を鵜呑みにしたら、つまり喰ったらそのまま自分が死ぬだろうと思っている。




アルを連れていつもの屋敷にやってきたリアは、通された部屋にケンセイがいないことには驚いたが、これがレオなりの歩みよりなのかもしれない。それでも、どこに何が潜んでいるのかなどは知らないが。


リアが聴いた話よりもかなり整理された内容をアルから聴いたレオは、輝くばかりの笑顔になっていった。男前の笑顔は胡散臭すぎて、真実を吐露している身を嫌な気持ちにさせる、とは初めて知ったことだった。




この男はなぜこんなにご機嫌なんだ、というのはアルとリア、どちらも思っていた気持ちだった。


その答えを告げるように、話を聞き終わったレオは朗らかに続けた。終始リラックスした佇まいで、こちらが緊張しているのが嫌になってくる。




「新しい劇場、建ててしまえばいい。支援します」




そう言われたとき、アルはその言葉がよく理解できないようだった。


リアはじわじわと、レオが喜んでいる理由、その『何か』を理解し始めていた。


それでも貴族の会食での演説のように、レオは身振り手振りさえしてこちらに語り掛けた。


君たちも、俺に告げてくれればよかったな。まあ身を告げる話だから、確証を持ってからにしたかったんだろうが。




「君たちの誤りは、既存体制が皆同じ考えを持っていると思っていたところじゃあないか?」




そう片手を広げたレオの態度は、なぜかリアには詐欺師がひらひらとさせているようにしか見えなかった。




「新しい取り組みをしたい。そしてすぐには約束できないだろうが、俺もそちらに出よう」




彫刻家が、馬鹿みたいな話だと思っていることが容易に分かった。


それでもリアは彼の笑みの意味が、どんどんと分かってきていた。




「ふふ、リア」




両手を組んでこちらを見てくるレオに、こいつ本当は私から聞く前に全部わかっていたんじゃあないのか、と思ったが、リアは黙って口を結んでいるしかなかった。




「賭ける先が見つかったことは本当に嬉しいね」




とろけるような甘い視線の意味を、リアだけは正しく理解していた。




こいつ、


こんなに勲章のデザインを変えたいのか!!!




もはやレオとリアの間には、ひらひらとストライプの布地が波打っているような想いだった。以前に交わした会話を思い出す。既存の賞のデザインを変えるより、新しい章をもらった方がはるかに楽だ。そうして、その口実に、相応しいものがあるかもしれない。




「文化の賞だよ、文化の賞」




もはやレオは立ち上がって高らかに言った。




「新しい賞を作る口実だ。だいたい何で俺が武勲をもらわなきゃいけないんだ? 芸術の新興、大いに結構!」




言葉での約束よりも、悪意と悪意の繋がりの方が強い。そう言ったのはあなたですよと、隣で固まっている大男に慰めるような想いを持っていた。


いうなれば、真心での約束よりも、利益と利益の繋がりの方が強い。だろうか。


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