第6話


慣れないスカートは脱ぎ捨て、熱い風呂の後に寝間着を着るとやっと人心地がついた。


いつもの労働に比べれば椅子に座っていただけだが、よっぽど肩も腰も痛いような気がする。ああ、とうめいてベッドに寝転がると、今日という一日がどれだけ長かったか思い知らされた。



初めての観劇、それに圧倒された後は主人公のご登場。よくわからないことを説明され、伸るか反るかもわからないが、どちらにせよ一筋縄ではいかなそうだ。


だいたい一職人がデザインを変えることなど、まずもってしてできるわけがない。となればあの坊ちゃんをどう言いくるめればいいのか。それとも本当に、何か手を打つ? もしかしてすべて、騙されている?




ぐるぐると思いは巡るが、疲れた脳はすぐに眠りを連れてくる。もう少し考えたいのに、と思いながら、どんどんと意識は遠のいていった。そんな中、胸に小さな痛みとともに走る記憶だけが、唯一眠りの邪魔をする。




ミネット。

いつもは押し込めているその名前と、遠い姿がひらひらと甦る。



母が病気になる少し前、幼いリアの物心がつく頃から工場にいた唯一の女性。

そして母の死後、リアの親代わりになっていた彼女。



父親から勲章の話が告げられたとき、本当は彼女に一番傍にいてほしかった。

喜びとともに押しつぶされそうになるプレッシャーの中で、この姿を見てほしかった。いいや、なんなら彼女がまだここにいれば、彼女が手にすべきだったはずの仕事だ。



考えれば涙が出そうになるから、この恐れを分かち合ってほしいという臆病な心には蓋をした。都合のよい眠りの波にのまれ、リアは意識を手放した。



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