第23話 【聖なる加護】

「え……?」


 エルヴィは振り向く。

 だが、もはや手遅れだった。


『カタカタカタ……!』


 スケルトンの錆びた剣が、彼女の肩部へと迫る。


 俺は幻視した。

 エルヴィの細い身体に、深々と剣が食い込む光景を。

 彼女が血のあぶくを吐き、絶命する瞬間を。


 しかし――――錆びた剣が彼女に触れんとした、まさにその瞬間であった。


『カチカ――チ――!?』


 スケルトンが突如、白い炎・・・に包まれる。

 その炎は不思議と神々しく、俺は光属性の魔術を連想させられる。


 白い炎に包まれたスケルトンは瞬く間に燃え尽き、灰も残さず完全に消滅した。


『コオオ……!?』


 白い炎に焼かれたスケルトンを見た直後、レイスと他のスケルトンたちは先程までとは一転して俺たちから――いや、エルヴィから距離を取る。

 どうやら激しく警戒しているようだ。


 ザッパさんは困惑した表情で、


「お、お嬢ちゃん……今のは……?」


「わ、わかりません、です……私はなにも……」


 エルヴィ本人も何が起きたのか理解できていない様子だった。

 だがそんな中で、俺はドロテアさんが言っていたことを思い出す。


「――そうか、【聖なる加護】だ! エルヴィの持つ聖気は、アンデッド系やゴースト系にとって致命傷になるんだよ!」


 そう、エルヴィの持つ〝加護〟。


 全身が聖気で覆われているとドロテアさんは言っていたが、その聖気は俺が思っていた以上に強力らしい。

 今の白い炎を見る限り、聖水の効果など比較にもならないほどに。


 流石は森人エルフたちに信仰される神様のご加護、といったところか。


「……とは言ったものの――」


 ――膠着状態に陥る俺たち。

 レイスたちは迂闊に手出しできなくなったが、俺たちも相変わらず決め手に欠ける。


 どうにかして、エルヴィをレイスに触れさせるか?


 ……無理だろうな。

 奴は全力で回避してくるし、スケルトンたちを使って動きを阻害してくるだろう。

 なによりエルヴィをザッパさんから離れさせるワケにはいかない。


 俺はともかく、彼は完全に無防備になってしまう。


 しかも【聖なる加護】は、おそらくエルヴィの身体以上には適用されない。

 さっき隠し通路でスケルトンを射抜いた時、白い炎は発生していなかったからな。

 彼女が普通に弓矢を放ったとしても、それは聖気のない攻撃となる証拠だ。


 どうする……なんとかして彼女の攻撃に〝加護〟の効果を付与できれば……。


 そう考えた時――俺の中にとあるアイデアが閃いた。


 そうだ――〝加護〟を持っていると、レベルが上がった時に特殊なスキル・・・・・・を獲得できるかもしれないんだよな――?


 だったら【経験値奪取ポイントスティール】で、俺の〝経験値〟を分ければ――!


 ――そう考えた瞬間、再び『白金の刃』が脳裏にフラッシュバックする。

 裏切られた、あの時の光景が。


 〔神官職プリースト〕でもないエルヴィが聖気をまとった攻撃スキルを解除アンロックするとなれば、おそらく途方もないレベルが必要になるはずだ。

 しかし一々レベルを上げて確認なんてしている暇はない。

 俺の持つ〝経験値〟を全て譲渡して解除アンロックし、レイスの不意を突けるか――って一発勝負になるだろう。


 つまりエルヴィに〝経験値〟を分けた瞬間、俺は完全な無防備になる。

 もし――もし彼女が欲望に呑まれ、俺を襲おうものなら――


 いや――違う――。

 エルヴィは、アイツらなんかとは違う――!


「――エルヴィ!」


「は、はい!? どうしました、です!?」


「いいか、俺の言うことをよく聞いてくれ!」


 もう迷ってる暇はない。

 俺は彼女の両肩をがしっと掴む。


「今から【経験値奪取ポイントスティール】を使って、キミに俺の〝経験値〟を全て注ぎ込む。そうすれば聖気をまとった弓矢を放つスキルを解除アンロックできるかもしれない。あくまで、可能性の話だが」


「私に……シュリオ様の……?」


「そうだ。そうすればレイスを倒せる。だから――俺とパーティを組んでほしい・・・・・・・・・・・


 俺がエルヴィの瞳を見つめて言うと、彼女はとても驚いた様子だった。


 【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を分け与える条件として、対象者とパーティを組まなければならない。

 それを踏まえた上で言ったのだが――彼女は何故かクスッと笑う。


「私とシュリオ様は、もう仲間パーティですよ、です」


「! ……そうだ、そうだな。俺たちはもう仲間パーティ、か」


 俺は少し自分を恥じる。

 所詮、わだかまりを持ってたのは自分だけだったのだな、と。


 笑顔を見せてくれたエルヴィだが、すぐに真剣は面持ちへと戻る。


「わかりました、シュリオ様。でも、ひとつだけ確認をしたい、です」


「? なんだ?」


「私が頂く〝経験値〟は、ちゃんとシュリオ様にお戻しできる、ですか?」


「あ……ああ、できる」


「それなら、私がレイスを倒したら、すぐに私から〝経験値〟を取り戻してください、です」


「! いいの、か……? それじゃキミのレベルは、また……!」


「いい、です。また地道にレベルを上げていく、ですから。それに――シュリオ様と一緒に冒険できるなら、私は幸せ、です」


「エルヴィ……!」

 

 キミは――キミはそこまで、俺を――


 俺は一瞬でも彼女を疑ってしまった己を恥じ、同時に彼女の覚悟をしっかりと受け止める。


「……わかった。それじゃあ――聞こえるか、天の声! シュリオ・グレンはエルヴィ・ハネミエスとパーティを結成! 彼女に、俺の持つ全ての〝経験値〟を注ぎ込め!」



『返答。了解しました。パーティメンバー、エルヴィ・ハネミエスに――全ての〝経験値〟を付与します』

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