第22話 ボス戦
『コオオオオオオオオオオオッ!』
そのボスは、上から現れた。
黒衣をまとう巨大な骸骨。
その身体には下半身がなく、宙に浮きながら移動する。
手にはバカでかい大鎌を持った、そのモンスターの正体は――
「〝レイス〟……!? ゴースト系モンスターの中でも最上級の奴じゃないか!」
現れたのはレイスというモンスターで、ゴースト系モンスターの中でもかなりの強敵。
強さのランクで言えば当然Aランク以上。
戦ったことがなければSランク冒険者パーティでも苦戦するし、コイツに関する知識がなければ全滅だって当たり前のように起こる。
何故かと言うと――
俺はポーチの中から投げナイフを一本取り出し、レイスへ向けて投擲。
しかし――投げナイフはレイスの身体をすり抜け、天井へと突き刺さった。
「やっぱり、物理攻撃は一切効かないか……」
そう、レイスには物理攻撃の一切が通用しない。
世に存在するゴースト系のモンスターは、ほとんどが死体や物体に憑依している。
つまり依り代があるのだ。
その依り代を破壊すれば存在を維持できなくなり、消滅。
倒されたという判定となる。
だが、このレイスは別格だ。
その依り代が存在しないのだから。
言わば霊体――魂だけのモンスター。
もしコイツと戦うとなれば、高レベルな〔
しかし、今の俺たちにはそのどれもがない。
絶対に戦ってはいけない状態なのだ。
『コオオオオ!』
大鎌を振り下ろして攻撃を仕掛けてくるレイス。
俺たちはそれを回避するが、奴が振るった一撃で石の床が粉砕。
あんなの食らったら一撃でお陀仏だ。
ザッパさんは流石に焦った様子で、
「こ、こんな奴相手にしてられねぇ! なんとか
「ダメです! 彼らの魂はレイスと繋がってる! コイツは、彼らの生命力を餌にしてるんだ!」
ゴースト系モンスターであるレイスは、物理的な意味で生き物の肉体を食らうことはない。
だがその代りに生き物の魂を食らって生き永らえており、捕らえた相手の魂を自分と繋げて徐々に貪り食うのだ。
魂の生命力を少しずつ吸われ続けた生き物はやがて干からびて朽ちるか、場合によってはアンデッド系モンスターとなって生まれ変わる。
そんな特性を持つため、魂が繋げられた状態で肉体を無理に引き離すのは危険極まる行為。
最悪、生きた状態で二度と目覚めなくこともあると聞く。
厄介とはこのことだろう。
……一度、撤退するか?
ドロテアさんに報告し、討伐隊を編成してもらう手もある。
だが、レイスは賢い。
それこそスケルトンたちを従え、組織的に誘拐を行えるほどに。
そんな奴が、隠れ家がバレた上で悠長に待っていてくれるだろうか?
――ダメだ、ここで退いては。
もし俺たちが逃げれば、捕らえられた者たちが無事で済むはずがない。
確実に、この場でレイスを仕留めるんだ。
「やれやれ、まさかこんなことになるなんてな……」
さてどうしたものか、と思案しながらナイフを抜き取る。
〔
そこまでいくと〔
ぶっちゃけ、ゴースト系のモンスターと〔
もっとも〔
「ま、とりあえずできることを――! 〔
自分の移動速度にバフをかけ、跳躍。
一気にレイスへと距離を詰める。
そしてポーチの中から〝聖水〟の瓶を取り出し、
「〔
瓶を三つに複製して域に蓋を取り、レイスへと浴びせかける。
そして聖水がかかった瞬間、物理攻撃が通用しないはずのレイスの身体がジュワ!っと溶解した。
『コオオ!?』
「よし、聖水は通用するみたいだな。時間はかかるが、これを繰り返せば――っ」
再び着地して聖水を用意する俺。
聖水はそれ自体に光属性が宿っており、瘴気や邪気を払う効果がある。
またそれ故に、アンデッド系やゴースト系には多少ではあるがダメージも与えられる。
いざという時に役立つため、〔
『……――』
だが聖水を受けたレイスは、言葉にならない声でなにかを詠唱。
床に無数の魔術陣を発生させ――スケルトンたちを召喚した。
今度は二十体以上はいるだろう。
凄い数だ。
しかもまだ増え続ける。
襲い掛かってくるスケルトンたちに、ザッパさんやエルヴィも応戦。
「クソッタレ! これじゃキリがねえぞ!」
「ザッパさんは退避を! エルヴィも一緒に――」
そう言いかけて、俺はエルヴィの方を見る。
だが――彼女の
「シュリオ……様……?」
「エルヴィ! 後ろだ、避けろォ――!!!」
彼女の背後には、一体のスケルトンが回り込んでいた。
そして――そのスケルトンは無情にも、錆びた剣を彼女へと振り下ろした。
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