第20話 いざ〈古代の枯坑道〉へ

 ありがたいことに、『フロンマー武具店』の店主は自ら〈古代の枯坑道〉の案内役を名乗り出てくれた。


 酒場の冒険者たちから地図を買った意味……と思ったが、彼らが紹介してくれたんだから文句はナシにしよう。


 そんなワケで、俺たち三人は〈古代の枯坑道〉へとやって来ていた。

 〈古代の枯坑道〉は太古の昔に人工的に掘られた場所で、入ってしばらくは一本道が続く。

 だがどうにも薄暗く、息苦しさを感じる場所だ。


「つい一週間前さ、素材採取に行った息子せがれが消えちまったのは」


「そうだったんですね……えっと――」


「ザッパ・フロンマー。ザッパでいい」


「それじゃザッパさん、息子さんはいつも〈古代の枯坑道〉で武具の素材を集めてたってことでいいんですよね」


「ああ、ここは枯坑道なんて呼ばれちゃいるが、奥地に行けばまだいくらか鉱石が掘れるんだ」


 ダンジョンを進みながら説明してくれるザッパさん。

 途中で雑魚モンスターと遭遇したりもしたが、簡単に蹴散らして奥へと歩いて行く。


 やはり出没するモンスターはランク相応、決して強くなどない。

 個体によってはエルヴィの弓でも倒せてしまえるほどだ。

 コイツらが行方不明事件の原因ってワケじゃなさそうだ。

 

息子せがれはまだ14歳で、ようやっと金槌を握り始めたばかりでよ。とてもじゃねえが鍛冶なんて出来ねえんだ。だからよしみの冒険者と一緒に採掘へ行かせることが多かったんだが、まさかこんなことになっちまうなんて……」


「ザッパさん……」


 彼は強面な頑固親父だが、息子のことはとても大事に思っていたらしい。

 跡継ぎという理由もあるだろうが、得てしてこういう人は身内を大事にするからな。

 不器用ながらも愛情深いお父さんなのだろう。


 そんなザッパさんにしばらくついていくと、


「さて……着いたぜ、ここが息子せがれが消えちまった場所らしい」


 分かれ道の前で立ち止まる。


 そこは道が三方向へと分かれており、行先が変わるらしい。

 エルヴィは気になった様子で、


「この先はどうなっているのですか、です?」


「真ん中と左は俺たちがよく使う採掘場、右がさらに奥へと繋がるダンジョンになってる。少なくとも息子せがれは右の道に入ったことはないはずだ」


 なるほど、右の道が冒険者ダンジョン・アタック用、真ん中と左が素材収集用か。


 その三本の道を見ていて――俺の〔支援職サポーター〕としての経験が訴えた。

 たぶん、ここになにかあると。


「二人共、下がっていてくれ」


 俺はザッパさんとエルヴィを背後に下げ、


「〔支援職サポーター〕スキル――【周辺探知ロケーター】」


 目を閉じ、地面に手を置いてスキルを発動。

 周囲の地形がどうなっているのか、なにかトラップがあるのか、そういった地形情報を取得していく。


 すると――


「!」


「シュ、シュリオ様……? なにかわかったのですか、です?」


「ああ……」


 俺は三本に分かれた道――ではなく、なにもない壁へと向かって歩く。


 そこは一見すると、ただゴツゴツとした岩肌でしかないが――俺がそこへ触れて僅かに魔力を込めると、なんと壁が消失して通路が出来た。


「ッ!? こ、こりゃあ……!」


「偽装トラップの一種だよ。魔力を込めて出現・消失のオンオフができるんだ」


 なるほど、これは気付かないはずだ。

 これを見抜けるのはよほどレベルが高い〔魔術職マジシャン〕か、俺のように【周辺探知ロケーター】が使える〔支援職サポーター〕くらいだろう。


 もっとも、【周辺探知ロケーター】は相当高レベルでないと解除アンロックできないレアスキル。

 俺みたく使える〔支援職サポーター〕なんておいそれといるワケがない。


 見つからなかったのも無理からず、って感じか。


「や、やりましたねシュリオ様! これで行方不明者の皆を――!」


「待て、エルヴィ」


 新たに現れた通路を進んで行こうとするエルヴィを、俺は呼び止める。


 〔支援職サポーター〕の経験からして、こういう隠し通路の類は大概ヤバい奴が潜んでる。

 しかも俺が発見するまで誰も気付けなかったということは、まさに未開の領域だ。

 どんな危険があるかさえもわからない。


「ここから先は俺一人で行く。エルヴィはザッパさんと一緒にここで待って――」


「イヤ、です!」


 かなり食い気味に拒否するエルヴィ。


 あ、あれ~?

 警戒心丸出しで注意喚起したつもりなんだけどな~?

 

「あの、エルヴィさん……? たぶん本当に危険だから、キミは――」


「私なら大丈夫、です! 必ずお役に立ちます、ですから!」


「……俺もだ。この先に息子せがれがいるかもしれないとくりゃあ、黙っていられねぇ」


 ザッパさんは背中に背負った大槌を手に取る。


「俺の本職はあくまで〔鍛冶師ブラックスミス〕だが、腕っぷしはそこらの冒険者にゃ負けちゃいない。大丈夫だ、おたくの邪魔はしねぇからよ」


「ザッパさん……」


「シュリオって言ったか。お前さんは大した奴だよ。さっきは怒鳴って悪かった。この先でどんなことがあろうとお前さんを責めたりしないから……行かせてくれ」


 その言葉は彼なりの誠意だったのだろう。

 そして覚悟をしている目だった。


 俺はどこまでも真っ直ぐな二人を拒否できず、


「……わかりました。エルヴィも一緒に行こう。ただし、絶対に俺から離れないこと」


「はい、です!」


「しゃあ、行こうぜ!」


 俺たち三人は、未知の通路へと足を踏み出した。

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