第19話 フロンマー武具店

 酒場の冒険者たちから情報と地図を仕入れた俺は、エルヴィを連れてさっそく『フロンマー武具店』へと向かう。


 ま、のんびり歩くか~……などと思っていた俺とは対照的に、エルヴィは感嘆とした表情だ。


「さ、さっきは凄い交渉術でした、です! それに、地図を格安で仕入れちゃいましたね、です!」


「アレは交渉術なんてモンじゃないよ。何年も〔支援職サポーター〕をやってると自然と身に付くものさ」


 そう言いつつ、俺は彼らから購入した地図を掲げて見る。


「それに、正直この地図はサービスで買ったようなもんかな」


「? サービスですか、です?」


「うん、さっきは銀貨一枚の価値って言ったけど、ぶっちゃけ銅貨七枚くらいでも高いくらいだと思う。なにせ古くて信用がないからね」


「! そうなのですか、です!?」


「でもあんまり値切ると喧嘩になるからさ。本当の価値をわかっていても、多少色を付けて価格を提示する。〔支援職サポーター〕として上手く立ち回るコツだよ」


 それでも銀貨三枚はちょっと高かったかなぁ、なんて言い加える俺。

 せめて銅貨九枚から始めればよかったと少しだけ後悔している。

 とはいえ穏便に済んだことだし、あまり気にしないようにするか。


「ほ、ほぇ~……とっても勉強になります、です……!」


「エルヴィもいずれ覚えていくさ。――っと、ここが『フロンマー武具店』だな」

 

 そんな話をしていると、俺たちは『フロンマー武具店』の看板が下げられた店に到着。

 さっそく中へと入って行く。

 

「いらっしゃいませー」


 カウンターには一人の女性が立っており、店番をしていた。

 年齢はたぶん40歳くらい。

 おそらくだが、この武具店の店主の奥さんだろう。


「どうぞご覧下さい、ウチはどんな武具でも取り扱ってますよ」


「あ、いや、実は武具を見に来たんじゃなくて、他の冒険者からこの店を紹介されまして……」


「? 紹介……?」


「ええ、ここに来れば〈古代の枯坑道〉の詳しい話が聞けるんじゃないかって」


「――ッ! 〈古代の枯坑道〉……っ」


 俺がその名前を出すと、彼女は何故か酷く動揺した様子だった。


 アレ? なんで?

 だって聞いた話じゃ、そこから鋼鉄やらなにやらの素材を掘り出してるって――


「……〈古代の枯坑道〉だって?」


 奥から一人の厳つい男が出てくる。


 どこからどう見ても頑固な〔鍛冶師ブラックスミス〕という風貌の厳つい外観で、口元にはダンディな髭。

 一目見て怖い人物だとわかる。


「え、ええ、これから〈古代の枯坑道〉に向かう予定なんですけど……」


「帰んな。話せることはなんもねぇよ」


「あの、このお店は〈古代の枯坑道〉で素材の掘り出してを――」


「帰れっつってんだろうが!」


 もの凄い気迫で俺たちを追い返そうとする店主。

 そんな彼の怒気にエルヴィは震え上がり、さっと俺の後ろに隠れてしまう。


 だが――そんな彼らの様子を見て、俺はピンと来た。

 これは、なにかワケありなんじゃないかと。

 ここは引き下がるのではなく、意を決して踏み込むべきだと。


 俺は呼吸を落ち着かせ、


「……俺は、冒険者ギルド連盟から〈古代の枯坑道〉の調査を依頼されて来ました。なんでも、あのダンジョンでは最近行方不明者が続出しているそうですね」


「……」


「このお店は〈古代の枯坑道〉で素材の掘り出してを行い、武具の製造を行っていると聞きました。……もしなにかお困りのことがあれば、お力になります」


「ハッ、お前みたいな若造になにができるってんだ。この間はSランクパーティが調査に出て、結局なにもわからず終いだった」


「信用できませんか? なら――これを見てほしい」


 俺は腰のポーチから一枚の羊皮紙を取り出す。

 そう、ドロテアさんに描いてもらったステータス表だ。


 それを見た店主と奥さんは、驚きで目を見開く。


「こ、これは……!」


「俺はレベル313の〔支援職サポーター〕です。ダンジョン調査なら他の職業ジョブよりずっと覚えがある。勿論、使えるスキルだって多い。だから絶対に行方不明者を見つけ出せるとは言いませんが……痕跡くらいは辿れるかもしれない」


 多少強気に出る。

 できるだけ失礼のない程度に。


 いやまあ、本当は痕跡だって辿れるかどうかわからないけど。

 ここで不安にさせちゃダメだからな。


 そんな俺の態度を見た店主は、長い沈黙の後――ハァとため息を漏らした。


「…………わかった。連盟はとんでもねえ人材を雇っちまったみてえだな」


「ありがとうございます。しかし今の反応……やはりなにかお困りなんですか? もう一度言いますが、俺でよければ力になります」


「「……」」


 互いに顔を見合わせる店主と奥さん。

 そしてしばし黙った後に、


「……ウチの息子せがれが、〈古代の枯坑道〉でいなくなっちまったんだ」

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