第18話 本領発揮(ある意味)

「いやはや、思わぬ依頼を受けることになったなぁ……」


 ドロテアさんから直々に〈古代の枯坑道〉の探索依頼を受けた俺とエルヴィ。

 そんな俺たちは冒険者ギルドを出て、ラバノの町中を歩いていた。

 

「冒険者として初めてのお仕事……私頑張ります、です!」


 自らに喝を入れ、気合を入れ直すエルヴィ。

 もう既にやる気十分といった感じだ。


「あんまり気負い過ぎるなよ、エルヴィ。さて……それじゃさっそく――」


「〈古代の枯坑道〉に向かうのですね、です!」


「いや、酒場に向かう」


「あ……あれ?」


 エルヴィは思い切り肩透かしを食らった様子。


 ま、俺もその顔を見たくて狙って言ったけどさ。

 ちょっと性格が悪かったかな?


「酒場って……お酒でも飲むのですか、です?」


「いや、情報を集めるのさ。まあ見てなって、ある意味〔支援職サポーター〕の本領発揮だ」


 俺は人気の多い適当な酒場を見つけ、中に入る。


 そこには昼間から酒を飲んで談笑する冒険者たちの姿。

 数は五人。

 見た感じ、それぞれが持ってる武器からしてパーティだろう。

 ランクは……たぶんB~Cランクか。


 丁度いい、彼らにしよう。


「なあアンタら、ちょっといいか?」


「ん? なんだよお前」


「いや~、実は俺たち〈古代の枯坑道〉に挑もうと思っててさ。でも最近この町に来たばっかで、ダンジョンのことをよく知らないんだ。なんか情報を教えてくれないかなって」


「情報……ねえ?」


「勿論、タダとは言わないさ。お姉さん、彼らに全員に新しい麦酒を! 俺からの奢りで!」


「はーい、かしこまりました!」


 酒を奢る様子を見せると、冒険者たちの俺を見る目が変わる。


「お、なんだよ。話のわかる奴じゃねーか」


「まあこれくらいはな。で、なにかタメになる話はあるか?」


 さり気なく、俺は椅子を引っ張ってきて彼らと同じテーブルに座る。

 こういうのも冒険者としての世渡りのコツだ。


「そうさなぁ……なんでも最近〈古代の枯坑道〉で行方不明者が出てるらしいぜ?」


「へえ、行方不明者? ヤバいモンスターでも住み着いたのか?」


 あえてなにも知らぬフリをする。

 こういう方が、実は色々と情報を引き出せたりするのだ。


 後から精査は必要になるが、情報というのは多ければ多い方がいい。

 他の冒険者たちも口を開き始め、


「いや、どうもそうじゃないらしいわよ。あくまで聞いた噂なんだけど……あのダンジョンじゃ〝神隠し〟が起きるんだって」


「神隠し……?」


「おうよ。ついさっきまで一緒に歩いてた仲間が、いきなり忽然と姿を消すんだそうだ。でも周囲にモンスターやトラップの気配はなし。なんかの呪いなんじゃねーかって言う奴もいるな」


「〈古代の枯坑道〉は、なにかいわく付きの場所なのか?」


「ううん、僕たちも何度も潜ってるけど、そんな雰囲気じゃないよ。特に珍しくもない坑道って感じ」


 ……〝神隠し〟か。

 覚えておこう。


 俺がそう思っていると冒険者の一人がニヤリと笑い、


「ところでよ、お前さん〈古代の枯坑道〉の地図は持ってるのか?」


「いや、まだ持ってないな」


「それならよ、俺たちのお古でよけりゃ譲ってやるぜ? 銀貨五枚でどうだ?」


「へえ……ちょっと見せてもらっていいか?」


 冒険者の男はポーチから古びた地図を取り出し、俺に手渡してくれる。

 それを広げて見た俺は――


「……コレが、銀貨五枚だって?」


「おうよ、宝の位置やトラップの配置なんかも記してあって便利だろ? 本当なら銀貨十枚でもいいくらいだ」


「嘘だね。コレは銀貨一枚くらいの価値しかない」


 俺がそう言うと、冒険者の男はピクリと眉を動かす。

 だが怒った様子ではない。


 俺は地図の端っこを指差して見せ、


「まず第一に、この地図は古すぎるな。ここに地図が描かれたのは十年前って書いてある。それに宝やトラップの位置が示してあるってことは、そこはもう宝が取られた後でトラップも安全になったって意味だ」


「……」


「それにこれだけ色々記されてある地図をポンと売ってくれるってことは、アンタらは既に最新の地図を持ってるからだろ? それじゃ銀貨五枚の価値とは言えない。違うか?」


「ほう……お前さん、中々鋭いじゃねえの」


「銀貨一枚なら出す。どうだ?」


「ダメだね。銀貨四枚」


「銀貨二枚」


「銀貨三枚。これ以上はまけてやらんぞ」


「ちぇ、わかったよ。それでOKだ」


「うっし、交渉成立だ」


 俺は冒険者の男に銀貨三枚を渡す。

 彼は何故か楽し気な顔で、


「なあ、お前さん〔支援職サポーター〕だろ?」


「ああ、そうだ」


「今はそこのお嬢ちゃんと組んでるみてーだが、元は名のあるパーティにいたんじゃねぇか? ちゃんとした目利きが出来る〔支援職サポーター〕ってのは、案外少ないからな」


「……まあ、ね」


 それを言われると、なんだか複雑な気分になるな。


 確かにこういう処世術は『白金の刃』にいる間に身に付けたものだ。

 だってゲイツたち、こういう地味な作業とか手回しを絶対やろうとしなかったし。

 本人たちは気付いてないだろうが、俺が前もって情報を仕入れてなかったらヤバかった場面は結構あった。


 まあ……もう関係ないか。


「色々教えてくれて助かったよ、それじゃあな」


「おう、待て待て」


 俺が立ち去ろうとすると、冒険者の男が呼び止める。


「俺は兄ちゃんのことが気に入ったぜ。酒を奢ってくれた礼だ、もう一つ〈古代の枯坑道〉絡みの情報を教えてやる」


 彼はそう言うと、テーブルに立て掛けた自分の剣を持ち上げる。


「『フロンマー武具店』って店に行ってみな。この剣もそこで作ってもらったんだが、あそこは武具の素材を〈古代の枯坑道〉で掘り出してるんだ。ひょっとすると、もっと詳しい話が聞けるかもしれないぜ?」

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