第13話 逆恨み

「よお……さっきはよくもやってくれたなぁ、兄ちゃん」


 エルヴィを捕まえていたのは、俺が冒険者ギルドで尻を蹴っ飛ばした酔っ払い冒険者だった。

 さらに、俺は瞬く間に大勢の男たちに囲まれる。


 たぶん全員が冒険者、かつ酔っ払い冒険者の仲間か手下だろう。

 ざっと20人はいる。

 誰も彼も酔っ払い冒険者のような荒くれ者の格好をしている。


 〈星降りの洞窟〉の入り口にはドロテアさんがいたはずなのに、コイツらどうやって……。

 いや、ここは試験に使われるほどの低級ダンジョン。

 抜け道や隠し通路の類は一つ二つあって当然か。


「……アンタ、なんのつもりだ」


「なんのつもりぃ? しらばっくれるんじゃねぇ! 俺の尻を蹴り飛ばしやがって、ぶっ殺してやるからなぁクソガキが!」


「そりゃ逆恨みだろ。ドロテアさんに迷惑かけてたアンタが悪い」


「うるせぇ! 逆恨みのどこが悪いってんだ!」


 酔っ払い冒険者――いや、ガスは剣でエルヴィの喉元に僅かに傷をつける。


「あんま調子乗るんじゃねぇぞ? 俺の加減一つでこの小娘の首は簡単に落ちるんだからなぁ」


「シュリオ様! どうか私のことは気にせず、この人を――!」


「黙ってろ! このクソ森人エルフが!」


 ガスはエルヴィの顔を思い切り殴り付ける。

 エルヴィは口から僅かに血を吹き、頬に大きな痣を作った。

 それを見た瞬間、俺は心から怒りが湧き上がる。


「お前……!」


「動くんじゃねえ! 一歩でも動いたらこのアマを殺すぞ!」


 一歩踏み出そうとした俺は、自分の足を止める。

 それを見たガスはニィッと笑い、


「それでいいんだよ、安心しろや。テメェを殺したらこの森人エルフも解放してやる。ま、たっぷり楽しんだ後で、だけどなぁ! ギャハハ!」


 下衆な笑い声を恥ずかしげもなく上げるガス。


 ――ああ、決めた。

 このクソ野郎は、ただでは帰さない。

 二度とこんなふざけた真似ができないようにしてやろう。


「オラァ、テメエら! そのガキをぶっ殺せぇ!」


「「「ヒャッハー!」」」


 ガスの号令と共に俺へと襲い来る冒険者たち。

 俺はため息を漏らし、


「……ここから一歩も動かなければいいんだな? だったら……〔支援職サポーター〕スキル――【罠生成トラップ・メーカー】」


 俺がスキルを発動した瞬間、冒険者たちの足元に岩に擬態したスイッチが出現。


 彼らが一斉にそれを踏み抜いた――瞬間、地面の下から強靭な網が飛び出す。

 網は冒険者たちを捕らえると上空に浮かび、天井からぶら下がる形で20名の冒険者たちを宙吊りにした。


「うお……!? な、なんじゃこりゃ!?」


「どうなってんだ、いつのまにトラップが……!」


「ち、畜生! この網、全然切れねぇ!」


 うーん、爽快。

 一度試してみたかったんだよな、このスキル。

 中々使い所が難しかったけど、決まると気持ちいい。


 部下たちが宙吊りにされたガスは、流石に驚きを隠せない。


「バ、バカな! あんなトラップこのダンジョンには……!」


「さて……残るはアンタだけだ。形勢逆転だな?」


「う、動くんじゃねぇ! 動くとコイツを殺すぞ!」


「そりゃ無理だ。だって、もうアンタの後ろにいるからな」


「――は?」


 ――俺は適当に拾った石で、ガスのハゲ頭を全力で殴り付ける。

 後頭部を強打されたガスはエルヴィを手放し、地面をのたうち回った。


「ぎゃああああああああああッ!?」


「あ、あれ? あれ? シュリオ様が二人いる、です!?」


 驚きを隠せないエルヴィ。

 無理もない、だってさっきから一歩も変わらぬ場所に俺は立っているのに、ガスの背後からもう一人の俺が現れたのだから。


「俺の方が本物だよ。〔支援職サポーター〕スキル――【囮映像デコイ・ホログラム】。あっちに立ってる俺はただの幻影だ」


 俺が合図すると、囮映像デコイ・ホログラムの俺は笑顔で手を振って消えていく。

 これでエルヴィも取り戻せた。


「怪我は大丈夫か、エルヴィ」


「だ、大丈夫、です。大したことない、です」


「そうか、エルヴィは強いな。とりあえず、はいポーション。ちゃんと傷は癒してくれ」


 エルヴィにポーションを渡した俺は、ガスの下へと向かう。


「さて……覚悟はいいか、ハゲ頭」


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