第12話 試験

「それでは試験の内容をお伝えします。お二人にはDランクのダンジョン〈星降りの迷宮〉へ挑んで頂き、最深部にある治癒草を摘んできて頂きます。それを私が確認次第、試験は終了。合格となります」


 〈星降りの迷宮〉の入り口で説明してくれるドロテアさん。

 それを聞いてエルヴィは奮起した表情を見せるが、俺としてはなんだか懐かしい気持ちになってしまう。


 思い返せば俺が冒険者になったのは三年前。

 あの時も似たような試験を受けたっけ。

 当時はえらい四苦八苦した記憶があるが。

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、ドロテアさんはクスリと笑う。


「フフ、Sランクパーティに所属していたシュリオ様なら、簡単な内容ですね」


「あれ? 俺、元Sランクだなんて言いましたっけ?」


「冒険証に書いてありましたから。それにAランクのガスさんを蹴っ飛ばしてくれましたし」


 ああ、そっか。

 そういえばあの酔っ払い冒険者、Aランク相当だったんだっけ。

 もう自分のレベルが文字通りレベチ過ぎて、感覚がおかしくなってるな。


「だけど、シュリオ様って〔支援職サポーター〕なんですよね? あの時のキックは、なんだか凄い威力だったような気も……」


「まあ、あんまり気にしないでください……。それはそうと、俺とエルヴィが二人一緒に試験を受けるのはOKなんですか?」


「本当なら分けるべきですね。経験者と本当の新人が一緒では新人にとって簡単な試験になりすぎる可能性もあるので、連盟のマニュアルでは別口にするよう言われています。でも、それはあくまで担当の采配に任されているので」


 なるほど、これはサービスってことだな。

 あの酔っ払い冒険者から助けてくれたことへの、ドロテアさんなりのお礼なのだろう。

 こちらとしても大助かりだな。

 エルヴィが試験に落ちるところなど見たくもない。


「シュリオ様はお分かりだと思いますが、ダンジョン内にはモンスターが出没します。どれも手強い敵ではありませんが、充分にお気を付けください」


「わかってます。それじゃ、行こうエルヴィ」


「はい、です!」


「それでは――実技試験、開始!」


 ドロテアさんの合図の下、俺とエルヴィは〈星降りの迷宮〉の内部へと走り出す。

 俺は元から自分の装備があったので借りなかったが、エルヴィは弓矢装備一式を借り受けた。

 流石は森人エルフ、弓矢の扱いには覚えがあるらしい。

 もしかしたら、いずれは立派な〔狙撃職スナイパー〕になれるかもしれないな。

 ……エーヴィンのようにはなってほしくないが。


「よし、エルヴィ。さっき話した通り俺が前衛、キミが後衛でダンジョンを進む。基本的には俺が片付けるが、多対一になったら頼むぞ」


「お任せください、です。弓の扱いには自信あります、です!」


 俺たちがそんな話をしていると――さっそくモンスターが現れる。

 半透明な青色の身体を持つスライムだ。


「こりゃ随分可愛らしいモンスターだな――っと!」


 すり抜け様にナイフでスライムを斬り裂く。

 小さな核を両断されたスライムは溶けるように消滅。

 だが一匹出てきたかと思うと岩の影などから次々と湧き出て、俺たちを通せんぼする。


「付き合ってられんな」


 俺は腰のポーチから火炎玉を取り出すと、


「〔支援職サポーター〕スキル――【複製コピー】」


 火炎玉を四つに複製し、ばら撒くように投擲。

 すぐに火炎玉は爆発炎上して、密集するスライムたちは次々と引火していく。

 そうして大量にいたスライムはあっという間に駆逐された。


「わあ! 凄いですシュリオ様! やっぱりシュリオ様は最強、です!」


「アハハ、スライム相手で最強って言われてもなぁ」


 あんまり嬉しくはない。

 元々もっと凄いの相手にしてたし。


 しばらく進んでいると、なにやら石畳が敷かれた一本道までやってくる。

 明らかに人の手が入ったような場所だ。


「ここは……」


「エルヴィ、近づくな」


 石畳に足を踏み入れようとするエルヴィを制止する。

 俺はそこら辺にあった適当な石ころを掴むと、石畳に向かって投げる。

 そして石ころが石畳に落ちた瞬間――ジャキン!と横の壁の隙間から槍が飛び出してくる。


「ひぇ……!?」


「よくあるトラップだ。こういうのを見抜くのも〔支援職サポーター〕の仕事ってね」


「さ、流石はシュリオ様、です! 勉強になります、です!」


「俺が先に進んで道の安全を確かめる。エルヴィはここから動かないでくれ」


「はい、です!」


 ここが試験に使われるダンジョンである以上、本当にヤバいトラップはないとは思う。

 だが念には念を、注意しておくに越したことはない。

 俺は慎重に石畳の上を歩き、他のトラップがないか確かめていく。

 石畳を歩き切った俺は他にトラップがないことを確認し、安堵してエルヴィの方へと振り向いた。


「よし、大丈夫そうだぞエル――……ヴィ?」


「シュ、シュリオ様……! ごめんなさい……!」


 振り返った俺が見たモノ――それは冒険者らしき男に掴まり、喉元に剣をあてがわれたエルヴィの姿だった。

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