第4話 囚われのエルフ

「っ!? 女の声!?」


 洞穴の向こう側から聞こえてきた叫び声に、俺の足は反射的に動く。

 【暗視眼ナイト・ビジョン】のお陰で暗闇の向こう側でもしっかり見えるため、全速力で駆け抜けることは容易だった。

 そして十数秒ほど走り、すぐさま開けた場所の手前まで行き着く、

 俺は僅かに身を隠して周囲を確認すると、


「ここは……やっぱり奴らの巣穴だったか……!」


 周りには、何体ものゴブリンがたむろしていた。

 ひい、ふう、みい……ざっと数えただけでも十五体、その内武装した個体は七体か。

 そんなゴブリン共は――


「いや! 助けて! やだぁ!!」


 今まさに、一人の少女に暴行を加えようとしていた。

 捕らえられた少女は、金色の長い髪と翠緑の瞳、そして特徴的な尖った耳を持った――森人エルフの少女。


 珍しい。まさかこんなところで森人エルフにお目にかかるとは。

 森人エルフ族は非常に長命であるが故に人口がとても少なく、さらに聖域とされる森での暮らしを基本としているため、人間の前に姿を現すことは稀だ。

 あちこちへ足を運ぶ冒険者をしていると出会う機会自体には恵まれるが、それでも一生の内に何度あるか、というくらい。

 ましてや――ゴブリンに掴まっている森人エルフなんて、珍しいなんてもんじゃない。


「助けないワケには……いかないよな」


 ゴブリンが人間――いや女性を捕まえ、巣穴まで持ち帰る理由は二つしかない。

 一つは食料にするため。

 もう一つは……苗床・・という慰み者にするためだ。


 ゴブリンは基本的に同種のつがいを作って子孫を増やすが、そもそも生命力・繁殖力が非常に高いため同種以外に人や亜人等とでも子孫を残せる特徴がある。

 そのため、たまに人間などが運悪く掴まったりすると――遊び道具兼苗床という最悪な扱いをされてしまうのだ。

 そして衰弱して使えなくなったら食料にすればよいという……効率的だが、考えるだけでも胸糞が悪くなる結末になる。


 俺は彼女を絶対に助けるという決意を固め、腰からナイフを抜き取った。


「さて、どう切り込むかな……」


 多勢に無勢、おまけに地の利は向こうにある。

 だが――こっちは大量のスキルを取得したばかりだ。

 自分の力を試すって意味でも……やってみるか。

 俺は腰のポーチから煙幕玉を取り出し、


「〔支援職サポーター〕スキル――【複製コピー】」


 一つの煙幕玉を複製し、四つに増やす。

 それをゴブリン共の巣穴の中へと投げ込んだ。

 ボンッ!という爆発が四連続で起き、巣穴の中が真っ白な煙幕に包まれる。


「ギャ!? ギャギャ!?」


「〔支援職サポーター〕スキル――【温度探知サーモセンサー】」


 暗闇が見える【暗視眼ナイト・ビジョン】を【温度探知サーモセンサー】に切り替え、巣穴へと突っ込む。

 これなら向こうから俺が見えず、俺から向こうは丸見えだ。


「〔支援職サポーター〕スキル――【速度上昇スピードアップ】」


 続けてステータスを上げる補助スキル。

 走る速さにバフをかけ、ナイフを構えて――


「ギャ……ア……!」


 ――斬る。緑色の血が飛び散る。

 まずは一体目。


「次」


 瞬時に次のゴブリンへ狙いを定め、緑色の身体を斬り捨てる。

 緑の血飛沫。これで二体目。

 視界の潰されたゴブリン共は状況を把握できず、ただギャアギャアと騒ぎ立てるしかない。


「ギャアッ!」


「ギャッ……!」


 その後もゴブリン共を斬り捨て続け――たった数十秒で、俺は十五体いたゴブリンを全滅させてしまった。

 それと同時に、ゆっくりと煙幕が晴れていく。


「……す――げえ――」


 俺は、自分の力に驚嘆する。


 あくまで俺は〔支援職サポーター〕だ。

 本来その戦闘力などたかが知れている。

 『白金の刃』にいた頃の俺なら、ゴブリン十五体を瞬時に一層するなんて絶対に不可能だった。

 それが今は、あまりに簡単にできてしまう。

 今の俺は、明らかに『白金の刃』のリーダーであるゲイツなんかよりも強い。


「ハ……ハハ……なんだか信じらんねぇ……」


『報告。敵を倒したことで〝経験値〟を取得しました。さらに【経験値奪取ポイントスティール】で敵から奪った〝経験値〟が加算されます』


 天の声が知らせてくれる。

 あ、そっか。攻撃をヒットさせれば【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪えるから、普通に倒すよりも多く〝経験値〟が貰えるのか。

 これまで自分で敵を倒し切ったことなんてほとんどなかったから、忘れかけていた。


 なんか現状でも無茶苦茶なレベルなのに、これ以上レベルアップしていきそうな気配だな……。

 ま、そんなことは今はいい。

 

「よし……敵は全部片づけたぞ。もう大丈夫だ」


「あ……ああ……っ」


 エルフの少女はまだ怯えており、こちらを警戒してくる。

 まあ彼女からしてみればゴブリンの代わりに人間が来ただけで、そう簡単に安心しろっていう方が無理なのかもしれない。

 人間嫌いのエルフって多いって聞くしな。


「俺はなにもしないよ。それより早くここから出よう。すまないが出口を――」


「だ、駄目! まだ他にもいる・・・・・、です!」


「え――?」


 エルフの少女が叫んだ刹那――俺の背後でズン!という大きな足音が響く。

 振り向くと――


「グガアアアアアアアアアアアアアッ!」


 そこには、馬鹿でかい図体のホブゴブリンが立っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る