第5話 【ポイントスティール(経験値奪取)】

「んな……っ!」


 嘘だろ、こいつさっきまでどこに――!

 驚く俺に向けて、ホブゴブリンは大きな丸太槌を振り被る。


「グガアアア!」


「〔支援職サポーター〕スキル――【空間壁シールド】!」


 発動。その瞬間に俺の全身を膜状の壁が包む。

 ホブゴブリンの丸太槌はその壁に直撃し――勢いよく弾き返された。

 だがその代わり、膜状の壁もバリン!という音を立て粉々に砕ける。


 新たに獲得した【空間壁シールド】は、あくまで緊急時に味方や自分の身を守る支援スキル。

 本職である〔防衛職ディフェンダー〕ほどの防御力は発揮できないらしい。


「グガア!?」


「クソ、なんて威力だよ……!」


 やはりその巨体から繰り出される怪力は、凄まじいの一言。

 こんな攻撃何度も受けていられない。

 

「だけど……逆にラッキーかもな……!」


 決して笑える状況などではないのに、俺の口元は笑みが出る。

 今の一撃から見るに、おそらくこいつは相当高レベルなホブゴブリンだ。

 これまで何人もの冒険者を屠ってきたのだろう。

 そういう奴ほど――【経験値奪取ポイントスティール】本来の能力が生きてくる。


「グガアアアアア!」


 再び丸太槌で襲い来るホブゴブリン。

 奴が俺を狙って得物を振り上げた瞬間――俺は一瞬の隙を突き、懐へ飛び込んだ。

 そしてすり抜け様に、ホブゴブリンの身体へナイフで僅かな傷をつける。


『報告。敵に攻撃がヒット。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取します』


 頭の中に響く天の声。

 よしよし、いいぞ――そらもう一発!

 もう一度間合いに飛び込み、ナイフを振るって小さな傷をつけた。


『報告。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取。敵のレベルダウンを確認しました』


 その後も大技などは一斉使わず、何度も何度もナイフで切りつける作業を繰り返す。


『報告。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取。敵のレベルダウンを確認しました』


『報告。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取。敵のレベルダウンを確認しました』


『報告。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取。敵のレベルダウンを確認しました』


『報告。【経験値奪取ポイントスティール】で〝経験値〟を奪取。敵のレベルダウンを確認しました』


 ……よし、そろそろか。

 俺は散々動き回っていた足を止め、ホブゴブリンを見据える。


「グガアアア!」


 馬鹿の一つ覚えのように丸太槌で攻撃を仕掛けてくるホブゴブリン。


「〔支援職サポーター〕スキル――【空間壁シールド】」


 そんな奴に対し、俺はさっきと同じスキルを発動。

 形成された膜状の壁に直撃した丸太槌は――今度は壁を破壊することができず、一方的に弾かれただけだった。

 ホブゴブリンの攻撃力が、レベルダウンによって大幅に下がってしまった証拠だ。


「グ……ガア……!?」


「こいつで終わりだ。〔支援職サポーター〕スキル――【致命確率上昇クリティカル・アップ】」


 腰のポーチから一本の〝投げナイフ〟を取り出した俺は、それをホブゴブリンの頭部目掛けて投擲する。


 投げられたナイフはホブゴブリンの額に刺さると――その大きな頭を、木端微塵に粉砕した。

 所謂クリティカルヒットである。


「うわあ」


 頭部の残骸を飛び散らせ、巨体をぐらりと逸らして倒れるホブゴブリン。

 なんかエグイ光景を見ちゃったなぁ。

 いや、試しにやったのは俺だけどさ。


『報告。敵を倒したことで〝経験値〟を取得しました。さらに【経験値奪取ポイントスティール】で敵から奪った〝経験値〟が加算。シュリオ・グレンはレベルアップ。レベル313になりました』


「おお、これだけ高いレベルでも上がるのか……。やっぱ強敵だったんだな」


 改めて驚く俺。

 そんなに強い相手でも倒せる、か……。

 うん、ハッキリと自信を持てた。

 もう俺は充分一人でやっていける。

 なんなら、俺を裏切ったゲイツたちに復讐してやってもいいくらいだが――


「……違うよな。俺のやりたいことはそれじゃない」


「あ、あの……?」


 不思議そうな顔をして、囚われたエルフの少女が声をかけてくる。


「ん? あ、ああすまない! キミを助けようとしてたんだった!」


 俺は慌ててエルフの少女へと近づき、彼女の拘束を解く。

 全身を見ると身体のあちこちに切り傷や痣があり、ゴブリン共に痛めつけられていたのがよくわかる。

 それに衣服もボロボロに裂かれており、あと少し遅れていたら……そう考えると恐ろしい。


「少し動かないでくれ。ええとポーション、ポーション……」


 俺はポーチの中からポーションを取り出し、彼女に飲ませる。

 すると彼女の傷は完璧ではないにせよ、みるみるうちに回復。

 これならとりあえずは大丈夫だろう。

 傷が塞がったのを確認すると、


「じゃあ次は……〔支援職サポーター〕スキル――【復元リペア】」


 ボロボロになった彼女の服を、ほつれ一つない状態にまで復元させる。

 これもついさっき覚えた新しい〔支援職サポーター〕スキルだが、しかし便利だな。

 やはり利便性の高さは〔支援職サポーター〕のスキルが随一だ。


「う……あ、ありがとうございます、です……。あなたは、えっと……」


「俺の名前はシュリオ・グレン。〔支援職サポーター〕の冒険者だ」


「〔支援職サポーター〕……とは思えないの、です」


 人間の言葉があまり得意ではないのか、ややカタコトに喋るエルフの少女。

 それでも意思疎通に問題はないらしい。


「そう思われても仕方ないな。ところで、どうしてキミはゴブリンに掴まっていたんだ?」


「エ、森人エルフの森から人里に降りようとしたら、群れに襲われて……」


 なるほど、奇襲に遭って為す術なく、か。

 それは不運だったな……。


「そうか……ともかくここから出よう。出口の場所はわかるか?」


「はい、です」


「なら道案内を頼む。えっと、キミはなんて呼べばいい?」


「私は、エルヴィ・ハネミエス。エルヴィと呼んで下さい、です」


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