第4話 母の傷み苦しみ絶望

俺が言うのを途中で止めた理由はただ1つ。勘の良い人はお分かり頂けるだろうか?噂をすれば、噂をしている人が現れると言う奇妙な法則に従った事によって現れたのは…


うん。弥生だ。夏らしい白のワンピースにサイドポニーテールに手間と時間を掛けて作られた前髪。


だが、しかし。新品の靴を履いて歩いている時に道端に犬の糞を踏んづけてしまうくらいにタイミングが悪い弥生の登場。


そして、何故にインターホンも鳴らさず普通に俺ん家の玄関から入りリビングに入って来れたのは疑問に思うが、とても突っ込める状況じゃない。


俺は全ての脳神経から脳の細胞に血管やらフルに使い、今この場で誤魔化す方法を考える。そして、それに従い導き出された答えの糸口を掴む。


「よぉ、弥生。来てたんか?」


「あぁ、今日は家に地鶏が届いてな。私の家だけじゃあ食べきれないからさ。仕方なくお前にもお裾分けにな。」


「それは有り難うよ。毎回、毎回悪いね。」


「別に…仕方なくだ。」


そう。俺が考えた誤魔化しは何も焦ることもなぐいつも通りに接する゙事だ。下手に焦ればボロが出て母さんや斑が煽り、終いには弥生による鉄拳制裁が俺に喰らうことは必然。


なら。いつも通りに接すれば、あの2人からの煽りもなく、鉄拳制裁も喰らう事もない。


更に言えば今、この状況で確かな手応えを感じてる。弥生はいつもの様に少し不機嫌そうな顔をしてツンケンした態度を取っている。


それが、いつもの弥生だ。つまり俺の誤魔化しは成功したと言っても過言では無いことが証明されたんだ。


「いやいや。凄く有り難いよ弥生。」


「だから仕方なくだと言っているだろ馬鹿者。それと焼き鳥がオススメだ!」


顔を少しプイっと逸らしながらツンケンと言ってくる弥生だが続けて言う。


「悪かったな。」


「何がだ?弥生。」


「私は好きとか嫌いとかの恋愛対象じゃないんだよ。私がただの仕事相手でな。」



ほぼ全部聞かれてやがった。


正に弥生による膝蹴り、ラリアット、エルボースタンプ、チョークスリーパーによる連続技の5秒前だった…


「ふん!」


弥生はズカズカと足音が分かる様に玄関のドアを開けてもうブッ壊れるんじゃねぇか?ってくらいに思いっきり閉めて家を出る。


「おーい…大丈夫か~?我が愚息よ。」


「痛てて…あの野郎。思いっきりやりやがっ…た…」


俺は床に倒れ込みながら生きるか死ぬかの瀬戸際って言うと大袈裟だがそれくらいの境地にいるのは確かだ。


「はぁ~…まず悠希。お前がお嫁さんや恋人が出来ないのは…」


「なんだよ?」


「このウザったい長い髪が原因よ?!」


「はぁ~?!どういうことだよ?」


「何よ?!男なのに肩まで伸びた髪の毛は?!それにボサボサで髪が傷んでるし!!」


「いやいやいや。それとこれとは関係な…」


「関係ある!」


「はい…」


「まず恋人を作るには見た目よ!見た目!第一印象!どんなに中身が良くても、どんなに性格が良くても、第一印象が良くないと中身も性格も女の子は見てくれないのよッ!!」


「はぁ…」


「だから髪を切りに行きなさいッ!!そして私に孫を見せろ!今から10ヶ月後に!」


「母さん。それは無理だ。」


「口答えしない!」


「そげふッ!!」


母さんのグーパンが俺の顎を捉えて見事に脳みそが揺さぶられて片膝をつく。チキショウ…未だに母さんに逆らえねぇとか恥ずかしい…


だいたい今から10ヶ月って赤ん坊が母親の腹の中に居るのが10ヶ月くらいだぞ?息子にワンナイトラブでもしろと?馬鹿なの?死ぬの?


「分かったから。取り敢えず髪を切りに行ってくるよ。」


「はぁ~い。行ってらっしゃい。」


もう何か疲れたわ。もう母さんから逃げて髪を切りに行かないで適当にフラフラするか…


「あっ!ちょっと待ちなさい。悠希。」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る