第2話 思い出の物は取り憑く
この調査は地味な上に座りっぱなしの作業だ。同じ体勢なのに対して精神的にもあんまり良くない。まるで幽霊に心の隙を漬け込まれそうで…
【もう休憩するか?】
「いやあと少ししたら。」
【了解。】
俺はあと少しの時間で考える事に集中してみる。どうしても解せないのが、あの泰代さんの目の前に現れた、たった1回だけしか現れなかった人形だ。
何故に1回しか現れなかったんだ?
俺はさっきの幸吉さんとの会話を思い出す。確か幸吉さんと泰代さんは、いつも通りに畑仕事を終えて晩御飯を食べる。
そして泰代さんは幸吉さんに新しい品種の野菜を作ろうと提案する。しかし幸吉さんは新しい品種を作るのは賛成だけど場所がない。
そして泰代さんは大嫌いな幸吉さん義母の人形コレクションを捨てて物置を取り壊して、新しい品種の野菜を作る場所にすると言った。
そして、幸吉さんはその日の天気は雨が降っていなかったのは確かで、その日の月がどんな月だったかを知らない。
だとしたら……いや待てよ。確か家の中をデジカメで撮影中に俺は泰代さんの寝室でもデジカメを撮っていた。
その時に俺は泰代さんと雑談に近い会話をした。
『泰代さん。旦那様から聞きましたよ。一緒に新しい品種の野菜を作るそうですね。』
『えぇ。やっぱり今の時代はありきたりの野菜より新しい品種を作って売り出そうと…』
『そうなんですか。依頼書にも書いてありましたけど、あの物置を取り壊して新しい品種を作る予定みたいですね。』
『はい。あの大嫌いな義母の人形を全て捨てて物置を壊して…』
『あまり泰代さんと旦那さんのお母様とは仲が良ろしくはなかったそうですね。』
『はい。いつも険悪で主人には心労を掛けましたよ。早く私の体調が良くなって人形を捨てて物置を取り壊して新しい品種を作りたいですよ。』
『そうですよね。旦那様との夢を叶える為にも。』
『はい…』
俺は泰代さんとの会話を思い出して、ある仮説を頭の中で組み立てる。
泰代さんは人形が現れてから、ほとんどが寝た状態。それは人形が現れた事によるトラウマと心労で幸吉さんともあんまり会話をしていないと考える。
そして俺の考えていた、その日の月の様子に天気だ。そもそも俺のその考えこそが的外れ。
そこから導き出される俺の仮説は天気や夜の月の状態ではないなら答えは1つだ。
それは泰代さんの台詞である゙人形を捨てたい゙だ。2枚の心霊写真と遺影を照らし合わせると今回の心霊の件は幸吉さんのお母様である事は確実だ。
そもそも幸吉さんのお母様の人形コレクションは大事な人から貰った宝物だ。その大事な大事な宝物が無惨にも捨てられるとなるとだ…
死んでも死にきれないし、成仏したくても成仏が出来ない。だから幸吉さんのお母様は大事な宝物の人形コレクションを捨てられない為に泰代さんの前で人形に取り憑いて現れた。
だとしたら…泰代さんが危ないッ!
【悠希!大変じゃ!!】
「なんだよ?!」
【今、依頼主の奥さんの悲鳴が聞こえた!アタイは奥さんの様子を見てくる!】
「ちょっと待て!俺も重大な事に気付いた!今から俺も泰代さんの所に行くから斑は先に行け!」
【うむ!】
俺は急いで立ち上がり物置を後にして駆け足で泰代さんの所に行こうとしたら……
「な、なんだ?!足が動かない…」
そうまるで俺は金縛りにでも掛かった様に足が動かない。それに俺の足から何か這い上がる様な感触がある。
それは足から腰。腰から背中。背中から首へと這い上がられる感覚。
『ジャマ…スルナ…』
更に俺の耳元からドス黒い声が聞こえてくる。なんとか首を動かし振り向くと無表情に不気味に眼を光らす人形だ。
そして棚に飾ってあった人形達はいつの間にか俺にしがみ付く様に拘束していた。コイツらが原因か…
「クソ…」
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