第2話 思い出の物は取り憑く


「1回きり……です……」


そう泰代さんは口を震わせながら答えてくれた。1回きりね……普通なら何回か出てくると思うんだけどな。


心残りや未練って言うのは、それは人間いや幽霊がこの世に漂う本能であり煩悩だ。それを1回きりと言うのは少し疑問だ。


「分かりました。わざわざ有り難うございます。では、ごゆっくり養生していて下さい。」


俺は立ち上がると旦那さんの幸吉さんと一緒に斑と俺は泰代さんの寝室から出ていく。


「何か分かりましたでしょうか?烏間さん。」


「ん~…大変申し上げにくいのですが今の所は少し…」


「そうですか…」


「しかし言えることだとすればですが。」


「はい。」


「やはり幸吉さんのお母様が生前に大事にしていた人形のコレクションが絡んでいるのは確かです。」


「そうですか…」


「幸吉さんから生前のお母様と、その奥さんとの関係を知っておきたいのですが宜しいでしょうか?」


「えぇ。構いません。」


そう言う事で俺は幸吉さんに案内されて居間でお茶と煎餅をつまみながら話を聞く事にする。


「母と泰代は考え方や性格からしてあんまり仲は良くはありませんでした。」


「そうでしたか。幸吉さんの心労を御察しします。」


「泰代は繊細で何事にも真面目な性格でしたが、母はどちらかと言えば男勝りに近い豪快さで肝っ玉な母でした。」


「確かに。お互いの性格からしてあまり仲良く出来るのは難しいと思います。」


「はい。自分が泰代と結婚する時は誰よりも母が反対しており、結婚してからも何かにつけて泰代に因縁を着けておりました。そんな母の性格が泰代には気に入らなかったのでしょう。泰代も最初は母に気に入ってもらおうと努力しましたが、段々と憎む様になっていきました。」


「そうでしたか。あそこにある遺影は幸吉さんのお母様ですか?」


「そうです。3年前に亡くなりました。」


「そうですか。遺影からもお母様の肝っ玉な所が伝わります。」


「アハハハ。恥ずかしいばかりです。」


「ところで、お母様の人形コレクションと言うのは?」


「はぁ……私も母から少しだけ聞かされていましたが。大事な宝物みたいなんです。」


「そうなんですか。誰かから貰った物とか、ただ人形が好きで集めてるとか?」


「そうですね。どちらかと言えば両方ですね。」


「両方ですか?」


「はい。母は幼少の頃はとても病弱な身体をしていたみたいで、母はいつも外で遊ぶ事は出来ず、いつも寝てばかりいたそうです。殆ど寝たきりの母には幼少の頃には友人はおらず、私の祖父が母に買ったのが人形だったそうです。」


「なるほど。つまり、それがお母様が人形を好きになり集めるキッカケになったと?」


「そうですね。それから病弱な母の話相手になったのが人形だそうです。そして祖父も病弱な母に少しでも寂しい思いをしない様にと人形を買い続けたそうです。」


「お母様の人形と言うのは数は多いのですか?」


「はい。部屋には起ききれず人形の為に作った倉庫があるほどに。それに半分は祖父からプレゼントされ、もう半分は私の父から人形をプレゼントされたそうで。」


「幸吉さんのお父様からもですか?」


「はい。父は母に相当惚れていたそうで父が少しでも母に振り向いてほしくて人形を。」


「つまり幸吉さんお母様にとって人形と言うのは、かなり思い出が詰まった物って事ですかね?」


「はい。しかし泰代は母を相当嫌っていましたから…」


「今まで自分に嫌がらせをしてきた嫌いな義母の大事な宝物を捨ててしまいたい。もう持ち主は亡くなっていて、宝物と言えど持ち主が居なければ文句はない。むしろ今までの嫌がらせを仕返ししたい。言葉は悪いかも知れませんが、そんな所ですか?」


「えぇ。むしろ烏間さんの方がオブラートに包んでます。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る