第1話 女の恋は時に怨みになる

「ないのぉ…」


「確かに何にも感じなかったし何にも写らないな…」


そう。俺と斑は家中をくまなくデジカメで写真を収めたが…こうも清々しいほどに何にもないとか…


「はぁ…悠希。今回の仕事はもしかしたら幽霊とかじゃなくて何かの突発性の病かもしれぬぞ?」


「確かに言われてみれば俺も思えてきたが…」


「が?」


「どうも、あの竹櫛の事が俺の頭から捨てきれない。そして遥ちゃんが拾った場所の愛憎湖って所もな。」


「アイゾウ湖?あぁ、娘が花見の時に拾った竹櫛が落ちていた場所な。」


「所がよ。さっき俺が下で写真を撮ってる時に聞いたんだけどよ。その愛憎湖ってのが曰く付きでよ。」


「ほぉ…私に話してみろ悠希。」


俺はご主人から聞いた愛憎湖の話を出来るだけ漏らさずに斑に話すと斑は胡座を描いて腕組みをする。


「ふむふむ。悠希。出かしたぞ。」


「出かしたって?」


「コレは当たり中の当たり。大当たりじゃ。悠希のさっきの話で確信が持てたぞ。」


「やっぱりか…だけど解せないな。」


「何でじゃ?」


「何故に霊感が感知しないんだ?」


「まぁ、それは依頼の手紙を読めば分かる。あの娘は一定の時間に暴れて、一定の時間に鎮まる。それに私の考えが正しければ悠希、あと少しで日にちを跨ぐ。跨いだ時間辺りに娘の写真を見よ。」


「それって……」


「今回の仕事は中々厄介じゃの。さて、私は先に風呂に入るとしようかの。」


そして斑は立ち上がり襖を開けて悪意に満ちた笑顔をして俺に振り向いてから、ゆっくりと襖を閉めて風呂場に向かう。


「おいおい…マジかよ。ハァ…」


俺は溜め息しか出なかった。もし、俺の予想が当たっていれば…あぁ。そろそろ日にちを跨ぐ時間か。


俺は遥ちゃんを撮ったデジカメに手を伸ばして、今までの画像をもう一度よく見ながら遥ちゃんの写真まで辿り着いた。


「ちっ…やっぱりか…」


斑の言っていた通りであり、俺が予想したまんまだった…


『ウワァァァアアアッ!!アァァァァァッ!!!!』


俺は家の中から奇声の声が聞こえてくるのが分かった。


俺は即座に天浄経文、霊縛の数珠、霊清銃を持って声の聞こえた方へ向かう。


「や、止めて!遥!」


「止めるんだッ!遥!!うっ!!」


「貴方ッ!!」


『ウウウウウ…ハァ…ハァ…ハァ…』


俺は見てしまった。遥ちゃんが自分のお父さんとお母さんに手を上げているトコロヲ。


遥ちゃん自身は可愛らしい黒目の大きな目ではなく、眼球は真っ白で髪は乱れて…


口からは涎を滴り垂らしては俺を見てくる。コレは間違いない。遥ちゃんは…


怨霊に取り憑かれたンダ…


『ウワァァァアアアッ!!』


「ちっ!」


遥ちゃんは俺を問答無用で突進してきて首に掴み掛かろうとする。なんつぅバカヂカラだよ。


『殺す!フゥー…フゥー…ウがぁぁぁぁ!!許さない…ゼッタイニ、ユルサナイ!!』


「生憎だが、お前にくれてやるほど俺の命は軽くねぇんだよっと!」


『ウッ!離せ…離せ…』


俺は遥ちゃんに力を利用した武術で投げ飛ばして関節を極めて身動きを取れない様にした。


『離せ…離せ離せ離せ離せハナセ、ハナセ、ハナセ、ハナセ…ウオォォォ!!』


「え?くっ…」


怨霊に取り憑かれた遥ちゃんは俺の関節技を解いて立ちやがった。いや違うな…


性格で言えば自分で肩の関節を外して鈍い音を出して、わざと脱臼させやがったんだ。


「この野郎…嫁入り前の遥ちゃんの大事な身体をよくも…」


『ウヒ~…』


遥ちゃんに取り憑いた怨霊は可愛さの欠片もない不気味な笑いをしながら自分で外した肩を自分で元に戻しやがった…


『あは~…グェェェッ!!!』


「あうっ!!!」


遥ちゃんの動きは身軽で軽く俺より背が小さいから当然だ。




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