第1話 女の恋は時に怨みになる


「では、着いてきて下さい。」


「分かりました。」


俺と斑は立ち上がり政夫さんの案内のもと娘の遥さんの部屋に足を運ぶ。


なんだろう…何か変だな。確かに、この家に入った時に少し幽霊の気配を感じたのは分かった。そしてコレは憑き霊が居るのも確信も持てた。


だけど手紙の依頼の内容と一緒なら可笑しい…


寒気をあんまり感じないんだ。なんて言うんだ?分かりやすく言えば邪気とか殺気の類いだ。少なくても、この様な依頼は邪気やら殺気がビンビンに感じるはずなんだけどな。


すると政夫さんは、とある部屋の一室の前に足を止めた。どうやら遥さんの部屋みたいだな。


「遥。今、大丈夫か?今、除霊師の烏間様がお前と話したいみたいなんだ。」


すると、遥さんの部屋の襖からゆっくりと開き始めると、そこには和服を着た黒い長い髪に、あどけない子供っぽさの残る女の子が姿を現した。


「誰…ですか…?」


「遥。今、ここに居る人が烏間悠希様だ。」


「おじちゃんが?」


「こ、コラ!遥!烏間様に失礼だろ!」


「いやいや。良いんですよ。私はもう三十路の近い男だからオジチャンですよ。」


「大変申し訳ありません…」


「では、娘さんと私と助手の3人で話したいと思います。」


「はい。分かりました。」


すると政夫さんは踵を返して居間へと戻って俺と斑と遥ちゃんの3人が残る。


「オジチャン。私の部屋に入る?」


「良いのかい?」


「うん。あと、お姉さんも一緒にどうぞ。」


「んにゃ。失礼するぞ。」


そして俺と斑は遥ちゃんの部屋に入り遥ちゃんは、ゆっくりと襖を閉める。


それにしても夜なのに自分の部屋に灯りを付けないなんて薄暗いな。あんまり視界が見えない。


「オジチャンが除霊師なの?」


「まぁな。それに少し色々と聞きたい事があるんだけど良いか?」



「うん、良いよ。私が答えられる範囲で。」


遥ちゃんは、さっき廊下で顔を覗かせたけど顔はまだ中学生くらいなのに、中学生にしちゃあ、かなり落ち着いてるよな。


「何で夜なのに電気を付けないんだ?」


「それは私は星や月を見るのが好きだから。ほら見て。窓から見える星や月が綺麗でしょ?」


「そうだな。確かにここは標高が高くて空気も綺麗だから星も月もハッキリと見える。」


「でしょ?それにね。私はいつか大好きな人と一緒に星と月を、ずっと見ているのが憧れなの。」


「そうか、そうか。それは遥ちゃんが、もう少し大きくなってからだな。」


俺は月明かりに照らされる遥ちゃんが年相応の笑顔に可愛らしく思い頭を軽く撫でる。


「もう…オジチャンったら私を子供扱いして…私はもう15歳何だよ?あと、もう少しで結婚も出来るんだよ?」


「確かに法律上は結婚出来るけど、あんまり急ぐことは無いだろ?」


「そうかな?私は凄く憧れるな。永遠に結ばれた運命の人と一緒になれるなんて。」


「そうだな。」


確かに荒井さん夫婦の依頼の手紙と同じ様に普段は何も変わらない年相応の恋に憧れる女の子だ。


特に遥ちゃんからは幽霊の気が感じられない。じゃあ何でだ?何で?この家からは幽霊の気が感じられるんだ?


何か矛盾してる。すると月明かりに照らされて何かが反射された。


「遥ちゃん。コレは?随分と古い櫛だね。」


「うん。1ヶ月前に拾ったの。」


「拾った?何処で拾ったんだ?」


「えぇーっとね。あそこに山があるのが分かる?」


「あぁ。山の影があるな。」


「そこを山を登って行くどアイゾウ湖゙って言う湖があるの。1ヶ月前に友達と一緒にアイゾウ湖の桜のお花見をした時に拾ったの。」


「そうなんだ。ちょっと触ってみても良いかい?」


「良いよ。どうぞ。」


俺は月明かりに照らしながら遥ちゃんが拾った古い櫛を触る。




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