第1話 女の恋は時に怨みになる
俺は、ゆっくりと目を開けると何とも不思議で奇妙な光景を見たのを覚えている。
そう。あの顔面が哀れな醜い悪霊は鎖に縛り付けられて身動きを動けない状態であった。
「ふぅ…危ない、危ない。危うく私がお腹を痛めて産んだ可愛い息子が殺される所だったよ。」
「か、母さん…?」
「大丈夫?悠希。恐かったね。もうお母さんが来たからには大丈夫だよ。」
そう。あの女の悪霊を鎖で縛ってと言うのは正確ではないな。
手のひらサイズの数珠を持ち両方の手を合わせて、数珠から鎖を出して悪霊を縛り付けている。
俺の実の母親だ。母さんはニコニコと微笑みながら俺に近付くと何も言わず、しゃがみ混んで俺の頬に優しく手を添える。
「母さん…」
「あらあら。転んで擦りむいちゃったのね。コイツを消したら、ちゃんと治療しようね。」
すると俺は心が安心したのか母さんの優しい笑顔に落ち着いたのか、身体の緊張が取れて目から大きな涙を流した。
「母さん…」
「あらあら。そんなに恐かったねのね。いーこいーこ。」
「恐かった…」
母さんは俺を包み込む様に抱き締めてくれてから優しく俺の頭を撫でてくれた。
「さてと…」
そして母さんは立ち上がり、さっきの優しい顔から、まるで鬼婆の様な恐い顔で鎖で縛り付けている悪霊を睨む。
「お前。よくも私の大事な息子を殺そうとしてくれたな。普通なら、お前の要望を聞いて自然と成仏させるが…お前に関しては情状酌量の余地はない。」
すると母さんは経文なのか何か巻物を開いて地面に置いて、両方の手のひらを合わせて唱え始める。
「怨魔陰羅津廃厳(おんまいんらつはいごん)…霊戒魔浄(れいかいまじょう)!」
『アアアアアッ!!ウウウウッ!!ギャァァアアッ!!』
すると経文から文字が浮かび上がり悪霊に文字が取り付くと悪霊は消え去った…
「よし!帰ろうか?悠希。」
そして母さんニカッて笑いながら俺に手を差し伸べる。だけど…立とうとしても中々立ってはくれない。
「もう。しょうがないな。ほらお母さんの肩に捕まりなさい。どうせ近くだし。」
「有り難う…母さん。」
もう安心なのに、醜い女の悪霊は居ないはずなのに上手く声が出せなかった。たぶん、自分が思っている以上に怖かったんだろう。
そして、家に着いてから母さんは傷の消毒やら絆創膏を張ったりとか…
母さんに聞いて見た。さっきの数珠や巻物について。すると母さん少しばかり渋ったけど話してくれた。
母さんは親父と結婚するまでは現役のバリバリの除霊師だったと。もちろん親父には除霊師の仕事については一切話して居なかったとか。
そして母さんの家系。つまり俺の祖父ちゃんや祖母ちゃん。そして母さんの兄弟姉妹。つまり俺の叔父さんや伯母さんも母さんと同じ除霊師だって。
そして本当は母さんとしては俺を、そう言う世界に引き込んで欲しくは無かったらしいけど。
どうやら俺に霊感があった時の宿命は決まっていたらしい。
それは…もし俺が…霊感があるなら……
除霊師に成らなければならないって事も…
でも、何でだろうか?俺は子供ながらにして何となく本当に何となく大人になったら幽霊と関わる仕事をするんじゃないか?って思ってた。
そう母さんに言われる前に。
特に俺は将来に対して押し付けられ感が嫌って言うより妙に納得してしまった。
確かに俺は悪霊に殺されかけて物凄く恐い思いをしたけど…どっちかって言えば母さんが悪霊を倒した事に勇ましく思い憧れを持つ様になった。
そして俺は除霊師と言う仕事は天職だと思い始める。
それから年月を掛けて俺は母方の祖父母の家に通いながら除霊師としての知識や技術を習い。
自分の物にして高校卒業と同時に母さんから数珠と経文を受け継ぎ今に至る。
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