(2)
この世には絶対に「社交辞令」ってモノを言ってはならない相手が存在する。
例えば、実は麻薬や覚醒剤を売ってる暴力団が、社交辞令のつもりで上部団体に「ウチでは麻薬も覚醒剤も扱ってません」と云う誓約書を入れたとする。
残念ながら、この
上部団体が、何かの都合で、この組を潰したくなった時に、この「ウチでは麻薬も覚醒剤も扱ってません」と云う誓約書を入れちまった事が、自分の組を潰される大義名分になっちまうって訳だ。
「あの〜、桑田さん……。『本社』直参の皆さんは……全員、誓約書を出しましたよね。『末端の子会社に到るまで、ウチでは、こう言うモノを扱ってません』って」
俺達のボスである「阿弥陀様」は、白い粉が入った小さいパッケージを見せながら、
「し……知らん……知らん……知らん……。そ……それに……俺を……こんな……」
「すいません。『本社』の会長から……こう言われてますんで……『桑田の会社で、そんな間違いが有る筈は無い。でも、変な噂が立っちまった以上、形だけ潔白を証明して欲しい』って」
「へっ?」
「ええ、形だけです。『本社』の会長の顔を立てて……『形だけ』潔白を証明して下さい」
そう言って「阿弥陀様」は……府中防共協会の親分に……大型ハンマーを渡す。
「あ……あ……あっ……?」
「そこに転がってる、
「う〜う〜」
「うううう……」
「形だけっすよ、形だけ」
「だから……何が形だけだ?」
「形だけでいいんで、潔白を証明して下さいよ」
「どう証明しろって……言うんだ?」
「あのねえ……桑田さんも、いい大人でしょ? 自分で考えて下さいよ」
「……」
「形だけっすよ」
「……」
「形だけっすよ」
「……」
「形だけでいいんすよ」
「……」
例によって、例の如く……仏像のような笑みを顔に貼り付かせて、誰かに「自分で考えろ」と言われた時は、肝心の自分が取れる選択肢の個数は最小限になっている、と云う事を自分より齢上の右翼系政治団体の名を騙る
「あ……あ……ああ、形だけだな……」
桑田は……ゆっくりと呼吸を整える……。
「形だけッ‼」
「あの……外れましたよ」
「形だけッ‼」
「今度は……命中しましたけど……もう少し力を入れないと……」
「形だけぇぇぇッ‼」
「はい、頑張って」
「形だけぇぇぇッ‼」
「もう一発」
「形だけぇぇぇッ‼」
「はい、やっと1人終った」
「形だけぇぇぇッ‼」
「やりましたね、今度は一撃で楽にしてやった」
「これは形だけなんだぁぁぁぁッ‼」
季節外れの世にも面白おかしいが吐き気もMAXな大型ハンマーによる西瓜割りが終るまで1時間以上。
割られた「西瓜」は二十個近く。
「こ……これで……いいか……み……水……」
俺の相棒の「十両」が腕をのばして、ミネラル・ウォーターのボトルを渡す。
「あ……すまない……。クソ……指に力が入らん……開かん……」
俺は……指を弾いた。
ふん縛られて、頭をカチ割られた死体から……「死霊」どもが出て来る。
「ん……え………何か……えっと……」
「どうかしましたか?」
「阿弥陀様」がそう言った途端……桑田は、俺が呼び出した出来立てホヤホヤの「死霊」どもに憑り殺された。
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