(9)

「神奈川の玄武愛国塾って……右翼団体を騙ってたヤクザの下請をやってたんだが……」

「ああ、この前、『正義の味方』どもに潰されたとこか……」

「そ……潰れたんで、仕事が無くなって、こっちの方が景気良さそうなんで『就職活動』に来たんだ」

「あの一緒に居た男は?」

「神奈川に居た時に組んでた情報屋だ」

 俺が連れて来られたのは……雑居ビルの一室……と言っても下手したら百人以上の人間が働けそうなフロアだった。

 どうやら、その「セキュリティ会社」は、この6階建ての雑居ビル丸ごと借り切ってるらしい。

 俺を尋問してるのは、その「セキュリティ会社」の「特殊保安部」とやらの管理職。

 四十過ぎの……一見すると豚だが、よく見ると筋肉達磨と言った感じの体重一〇〇㎏OVERは確実そうな奴。

 顔だけは妙に温厚そうだが……良く良く観察してると、表情にほとんど変化が無い。

 一〇分経っても、二〇分経っても、仏像か何かのような温厚そうな表情が顔に貼り付いたままだ……。

 何か……嫌な気がするが……魔法で「探る」と逆に「探った」事を気付かれそうな雰囲気も有る。

「なら、しばらくは、俺達が容易したマンションから出るな。食事や日用品は届けさせる。あと……一緒に居た男は情報屋だと言ったな」

「あ……ああ……」

「じゃあ、ウチに就職したいなら採用試験だ。山能組の組長をる計画を立案してみせろ」

「予算と期日は?」

「これぐらいだな……」

 金額は……無茶苦茶だ……。

 広島最後の神政会への「抵抗勢力」である山能組は……構成員・金ともに神政会の数十分の一。いや、百分の一未満であってもおかしくない。

「この金額……しょぼい組1つ潰すには……」

「わかるか? 相場より桁1つ多い。派手にやってくれ……警察デコスケや、最近流行はやりの『正義の味方』どもとの全面戦争も辞さないぐらいのな……」

「へっ?」

「しょぼい暴力団ヤクザの組長1人を血祭りに上げるんじゃねえ。ついでに、どでかい花火を打ち上げるんだ。警察デコスケや『正義の味方』どもへの宣戦布告の花火をな……」

「あ……あの……神政会は他県進出の準備をしてるって噂を聞いたんですが……その大事な時に、そんな派手な真似して大丈夫なんですか?」

 仏像みたいな表情が顔に貼り付いてた筋肉達磨の顔の筋肉に……ようやく大きな変化が有った。

 つまり……爆笑した、って事だ。

「他県進出? おいおい、警察発表やネット上の噂や『業界誌』の与太を本気にするんじゃねえよ。最終目的は……もっとデカい事だ」

「え……?」

「採用試験に合格するまで詳しい事は言えないがな。ああ、そうだ……お前と一緒に組むのは、お前をここに連れて来た男だ。コードネームは『幕下』。そうだな……お前のコードネームは『チビすけ』で、一緒に居た男は『アイス』でどうだ? 仕事中は、俺の事は……『阿弥陀様』とでも呼んでくれ」

「は……はぁ……。じゃあ、『阿弥陀様』、花火を打ち上げろ、って事ですが……火薬はどんな種類のを、どれだけ用意出来るんですかね?」

「火薬? 何の事だ?」

 「上」が言ってた通り、神政会が米軍岩国基地を襲撃して武器なんかを奪ったんなら……当然、持ってる筈だ。

「いや……だから……標的を爆殺するってプランを立てた場合……それが可能なだけの爆薬は調達出来ますか?」

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